バリ文字 英 Balinese script,バリ Aksara Bali, HANACARAKA
バリ文字は,他の東南アジアの諸文字と同様,パッラバ文字の流れを組む文字である。直接の起源は,古ジャワ語(カウィ)を記述するのに用いられていたカウィ文字である。そのため,現代でもバリ文字は,字形がやや異なることを除けば,ジャワ文字と同じ体系を成している。東南アジア島嶼部の文字の多く(ブギス文字、バタク文字など)は,見かけ上はインド系の文字であるとはわからないくらい形が単純化しているが,バリ文字は比較的インド系文字特有の形を残していると言える。バリ文字は,伝統的には,貝葉にさまざまな文章―歴史,儀礼のきまりごと,農業や薬学に関する知識,物語など―を書くのに用いられてきた。(貝葉は,バリでは材料となる植物の名「ロンタル椰子」を取って「ロンタル」と呼ばれている。)
現在,バリ語は圧倒的多数のバリ人の第一言語として、家庭や地域社会で用いられている。しかし,その使用はもっぱら話し言葉としてのもので,書き言葉としてはほとんど用いられていない。それゆえ,バリ文字が日常生活の中で用いられることもほとんどない。その背景には,インドネシア語の存在がある。インドネシアでは,憲法でインドネシア語が国語として定められており,現在,学校教育や公式文書などではインドネシア語が使われている。その影響を受け,バリでも,日常生活の中の「書きことば」としてはローマ字表記のインドネシア語が用いられている。ただし,現在でも,ある種の宗教的文書(暦など)はバリ語で,バリ文字を用いて表記されている。また,近年 (1990 年代以降)になって,「中央集権」から「地方分権」への政治的流れが生じたことから「地域文化」復興の動きがみられ,それを受けて,公的教育でのバリ語およびバリ文字教育が始まった。そのため,現在,若いバリ人の多くはバリ文字の知識を身につけている。また、街頭や建物の表示にバリ文字がみられるようになってきた。【出典】塩原朝子『バリ文字』
バリ文字 [中西印刷 / CC BY-SA 3.0 DEED / 出典] |
文字構成
バリ語は比較的音韻体系が単純な言語である。それを反映して文字の数も比較的少なく,「基本字」は以下の 18 字である。これらの文字は,インド系文字の多くとは異なる以下のような配列で並べられる。これらの基本字は子音 +a を表す。これらの基本字と,母音記号,子音を表す補助記号などの組み合わせで a 以外の母音や子音連続や音節末子音が表される。表記の際,例単語間にスペースをいれない。
子音字
基本の子音字は18文字。青字で示した文字は,h, r, ng 以外の子音字に連続する子音字が現れる場合,後続する子音字として用いる字形(接続文字)。
子音字
古ジャワ(カウィ)語を表すための子音字。
母音字
単語が母音で始まるとき、(母音記号を添えない)独立した母音字が使用される。
母音記号
a 以外の母音を表すための母音記号は,子音字の上下左右の所定の位置に置かれる。
語末に添える記号
語尾が ng, r, h で終わるときに添付する記号と,語末の母音 a を取り除くための記号。
数字
特殊記号
句読点
テキスト
テキスト入出力
ユニコード
バリ文字のユニコードでの収録位置は U+1800..U+1870 である。フリーフォント:Noto Sans Balinese
関連リンク・参考文献
- バリ文字
- 中西コレクション(国立民族学博物館)バリ文字
- 世界の文字(中西印刷)バリ文字
- Omniglot Balinese (Basa Bali)
- ScriptSource Balinese