パーリ文字 英 Pali script パーリ pāli (pāḷi)-akkara
パーリ文字という単一の文字体系はない。パーリ語が地域ごとに土着の文字(起源的にはいずれも南インドに由来するシンハラ文字,モン系文字,クメール系文字)で表記され,土着の言語の音韻体系に組み込まれて発音される文字体系を総称したものである。→ 藪
パーリ語は,インド・アーリヤ族の民衆言語プラークリット語を代表する言語で,南伝上座部仏教(Theravada Buddhism)の経典語である。「パーリ」という語の意味も,三蔵経(経律論蔵) を指している。パーリ語の経典をその註釈(義疏 aṭṭhakathā,復註 ṭīkā,復々註 anuṭīgā)は,上座部仏教を受容発展させた地域にすでに普及していた南インド起源の文字を用いて書かれた。古くは,もっぱら貝多羅葉(palm-leaf)に刻まれた。セイロン(スリランカ)ではシンハラ文字,ビルマではモン文字とビルマ文字,タイ国ではシャム(タイ)文字,カンボジアではクメール文字,ラオスではラオ(ラオス)文字が用いられる。このように,パーリ語という言語は 1 つでありながら,文字は地域によって異なっている。→ 藪
また,15~16 世紀成立の北タイのランナー王国のユアン文字(Yuan script,モン系文字とタイ系文字の混淆,モン・スコータイ文字)をはじめ,シャン文字,クン文字タイ・ルー文字などによるパーリ語経典がある。また,5~6 世紀のピュー文字による刻文のなかにパーリ語経典断片がある。次に→ Jensen によるパーリ語の各種表記を示す。
パーリ語各種表記 [出典 : Jensen, Hans (1970) Sign, symbol and script : an account of man's efforts to write. (G. Allen & Unwin) p. 388.] |
I 音価 II ビルマ文字 Kyok-tša (Pāli square script) II ビルマ文字 painted III ビルマ文字 現代 IV タイ文字 Boromat manuscriot V 古タイ文字 VI タイ文字 Pāṭimokkha manuscript VII 古クメール文字 VIII 現代クメール文字 IX ラオ文字 X 古モン文字 XI アーホーム文字
注
- 藪司郎 (2001)「パーリ文字」河野六郎, 千野栄一, 西田龍雄 編著『言語学大辞典 別巻 (世界文字辞典)』三省堂, p.752.
関連リンク
- パーリ語 | Pali
- パーリ仏典
- 中西コレクション(国立民族学博物館)クメール文字 | シンハラ文字 | タイ文字 | タム・ラーオ | タム・ラーンナ | ビルマ文字
- パーリ語入門 ローマ字以外の表記法 [Home Page] まんどぅーかのパーリ語ページ
- James, Ian (2010) Thai & Lao Script for Writing Pali. skyknowledge.com
[最終更新 2019/06/20]