カウィ文字 英 Kawi

現代ジャワ文字の母胎となったのは,カウィ文字とも呼ばれる古ジャワ文字である。カウィとは,サンスクリット語の「詩人」に由来するが,この文字が主としてカウィ語(古ジャワ語)の韻文を書くために用いられためで,カウィ語という名称は,14 世紀にすでに用いられている。
カウィ文字は,南インドのパッラヴァ(Pallava)王朝(世暦紀元 300~800)時代の経典(grantha)文字を直接の起源とするインド系文字である。このパッラヴァ文字(経典文字)はまた,東南アジアのビルマ文字,モン文字,タイ文字,クメール文字,チャム文字などの源ともなった。ジャワのサカ王伝説によれば,インドからジャワ文字を伝えたのはシャカ暦元年(西暦 78),トリトレスタという婆羅門であったといわれる。
カウィ文字は,パルメラヤシの葉に書き付ける文字として発達し,尖った筆記用具を用いるため,字形も長い線を描く事が困難になり,丸みをおびてやや斜めに書く字体に変わる。書かれた文字資料は,ロンタル(貝葉)と呼ばれる。(崎山)
カウィ文字表

文字見本
カウィ語ージャワ語辞典

Winter, C. F. (Carel Frederick) (1880)Kawi-Javaansch woordenboek : ten behoeve van degenen, die Javaansche gedichten wenschen te lezen (Batavia : Landsdrukkerij,)
ラグナ銅版碑文
マニラ南方のラグナ州の川縁から出土した 1 枚の銅板は,初期カウィ文字で書かれ,碑文の釈迦暦 822 年(または西暦 900 年)から,制作年代は,10 世紀頃と推定された。内容は,現在のマニラ北部のブラカン州の,証人名を記した,ある家族の負債免除の証文である。この碑文は,東南アジア島嶼部におけるカウィ文字の使用範囲のほか,碑文の語彙は,多くのサンスクリット借用語とフィリピンの現地語(古タガログ語),古マレー語を含み,その語法は,他の碑文とも多くの共通点が見いだせることから,リンガ・フランカ(共通語)としてのマレー語の適用範囲を具体的に示す証拠ともなった。

後期カウィ文字期
西暦 925 年から 1250 年にかけて,主に東部ジャワに集中して見られる文字で,とくにクディリ朝(1100~1222)下で字形は洗練され,方形状になった。この時期の文字は,インドネシア各地の文字へと継承されたといわれ,西部ジャワでは西暦 1080 年のチ・チャティー碑文群のスンダ文字,南部スマトラでは西暦 997 年のパワン・ランギット碑文の文字も,この文字に類似する。次の図は,東部ジャワ・マランのガンタン(Ngantang)石碑(1135 年)の一部。(橋本)

関連サイト
Kawi script
- Omniglot Kawi
注
- 崎山理(2001)「ジャワ文字」『世界文字辞典』(言語学大辞典,別巻,三省堂)
- 橋本郁雄(2001)「東南アジア島嶼部の文字」『世界文字辞典』(言語学大辞典,別巻,三省堂)