カウィ文字 英 Kawi
現代ジャワ文字の母胎となったのは,カウィ文字とも呼ばれる古ジャワ文字である。カウィとは,サンスクリット語の「詩人」に由来するが,この文字が主としてカウィ語(古ジャワ語)の韻文を書くために用いられためで,カウィ語という名称は,14 世紀にすでに用いられている。
カウィ文字は,南インドのパッラヴァ(Pallava)王朝(世暦紀元 300~800)時代の経典(grantha)文字を直接の起源とするインド系文字である。このパッラヴァ文字(経典文字)はまた,東南アジアのビルマ文字,モン文字,タイ文字,クメール文字,チャム文字などの源ともなった。ジャワのサカ王伝説によれば,インドからジャワ文字を伝えたのはシャカ暦元年(西暦 78),トリトレスタという婆羅門であったといわれる。
カウィ文字は,パルメラヤシの葉に書き付ける文字として発達し,尖った筆記用具を用いるため,字形も長い線を描く事が困難になり,丸みをおびてやや斜めに書く字体に変わる。書かれた文字資料は,ロンタル(貝葉)と呼ばれる。[1]
カウィ文字表
母音字
𑼄 | 𑼅 | 𑼆 | 𑼇 | 𑼈 | 𑼉 | 𑼏 | 𑼐 | |||
a | ā | i | ī | u | e | ai | o | |||
𑼒 | 𑼒𑼴 | 𑼒𑼶 | 𑼒𑼷 | 𑼒𑼸 | 𑼒𑼹 | 𑼒𑼾 | 𑼒𑼿 | 𑼒𑼾𑼴 | 𑼒𑼿𑼴 | 𑼒𑽀 |
ka | kā | ki | kī | ku | kū | ke | kai | ko | kau | kĕ |
𑼊 | 𑼋 | 𑼌 | 𑼍 | |||||||
ṛ | ṝ | ḷ | ḹ | |||||||
𑼒𑼷𑼴 | 𑼒𑽂𑼊 | 𑼓 | 𑼒𑽂𑼌 | 𑼒 | 𑼓𑽁 | |||||
kō | kṛ | kṝ | kḷ | kḹ | k |
子音字
𑼒 ◌𑽂𑼒 | 𑼓 ◌𑽂𑼓 | 𑼔 ◌𑽂𑼔 | 𑼕 ◌𑽂𑼕 | 𑼖 ◌𑽂𑼖 | 𑼗 ◌𑽂𑼗 | 𑼘 ◌𑽂𑼘 | 𑼙 ◌𑽂𑼙 | 𑼚 ◌𑽂𑼚 | 𑼛 ◌𑽂𑼛 |
ka | kha | ɡa | ɡha | ṅa | ca | cha | ia | iha | ña |
𑼜 ◌𑽂𑼜 | 𑼞 ◌𑽂𑼞 | 𑼠 ◌𑽂𑼠 | 𑼡 ◌𑽂𑼡 | 𑼢 ◌𑽂𑼢 | 𑼣 ◌𑽂𑼣 | 𑼤 ◌𑽂𑼤 | 𑼥 ◌𑽂𑼥 | ||
ṭa | ḍa | ṇa | ta | tha | da | dha | na | ||
𑼦 ◌𑽂𑼦 | 𑼧 ◌𑽂𑼧 | 𑼨 ◌𑽂𑼨 | 𑼩 ◌𑽂𑼩 | 𑼪 ◌𑽂𑼪 | 𑼫 ◌𑽂𑼫 | 𑼬 ◌𑽂𑼬 | 𑼭 ◌𑽂𑼭 | 𑼮 ◌𑽂𑼮 | |
pa | pha | ba | bha | ma | ya | ra | la | wa | |
𑼯 ◌𑽂𑼯 | 𑼰 ◌𑽂𑼰 | 𑼱 ◌𑽂𑼱 | 𑼲 ◌𑽂𑼲 | 𑼂 | 𑼃 | ||||
śa | ṣa | sa | ha | r | h |
RA の結合には,r- ( 𑼂 ) と -r- ( 𑼬 ) 2 つの形式がある。
𑼂 + | = | 𑼂𑼒 | rka | 𑼂 + | = | 𑼂 𑼒𑼶 | rki | |
𑼒 + | = | 𑼒𑽂𑼬 | kra | 𑼒 + | = | 𑼒𑽂𑼒𑽂𑼬 | kkra |
文字見本
[Thomas Stamford Raffles / Public Domain/ 出典] |
ラグナ銅版碑文
マニラ南方のラグナ州の川縁から出土した 1 枚の銅板は,初期カウィ文字で書かれ,碑文の釈迦暦 822 年(または西暦 900 年)から,制作年代は,10 世紀頃と推定された。内容は,現在のマニラ北部のブラカン州の,証人名を記した,ある家族の負債免除の証文である。この碑文は,東南アジア島嶼部におけるカウィ文字の使用範囲のほか,碑文の語彙は,多くのサンスクリット借用語とフィリピンの現地語(古タガログ語),古マレー語を含み,その語法は,他の碑文とも多くの共通点が見いだせることから,リンガ・フランカ(共通語)としてのマレー語の適用範囲を具体的に示す証拠ともなった。[2]
カウィ文字で書かれたラグナ銅板碑文 [Nordenx - https/ Public Domain / 出典] |
ユニコード
Unicode: U+11F00..U+11F5F フォント:Noto Sans Kawi
注
- ^ 崎山理 (2001)「ジャワ文字」『世界文字辞典』河野六郎, 千野栄一, 西田龍雄 編著『言語学大辞典 別巻 (世界文字辞典)』三省堂 p.486
- ^ 崎山理 (2001)「東南アジア島嶼部の文字」河野六郎, 千野栄一, 西田龍雄 編著『言語学大辞典 別巻 (世界文字辞典)』三省堂 p.666
関連サイト
- Wikipedia Aksara Kawi
- Kawi script
- Omniglot Kawi alphabet
- Aditya Bayu Perdana / Ilham Nurwansah (2020) Proposal to encode Kawi