黒タイ文字 英 Black Tai characters
ベトナム西北部のラオスとの国境付近のディエンビエンフー(Dienbienphu,および,黒河流域のソンラ(Son La)を中心に居住する,黒タイ族の黒タイ語(Black Tai, Tai Dam)を表記する文字。使用地域を限定することは難しいが,黒タイ語の分布地域とほぼ同地域であると考えられている。文字の系統は,東方タイ文字に属し,古クメール文字からの派生形と考えられる。 [1]
ベトナムがフランス植民地支配下にあった 20 世紀前半,公教育では,仏文とクオックグーが教えられていた。しかし,1954 年にインドシナ戦争が終結し,フランスが撤退すると,ベトナム民主共和国(当時の北ベトナム)下で,仏文教育は廃止され,クオックグー教育が推進された。一方,西北地方には 1955 年に民族自治区が設置され,特殊な展開があった。自治区内では,各公的機関での自民族の言語と文字の使用が認められ,民族語による教育も目指されたからである。こうして,固有文字を持たない民族語に関しては文字の創造が,黒タイのように固有文字を持つ場合は,字体の統一や改定が試みられた。このような文字教育は,自治区内各地で,クオックグー教育に一元化される 1969 年まで,実施された。なお,自治区での改定以前から手写で伝えてきた字体を古タイ文字と呼び,この文字で記された歌謡,物語,暦書,祈禱儀礼書,年代記,系譜・家霊簿,慣習法などが継承された。 [2]
文字構成
表単音文字で,子音文字と母音符号を組み合わせる。子音文字は1字形が1単音を表示し,単独で読むときには母音 ɔ をつける。母音符号は,それぞれの種類によって,子音文字の上下左右につけられる。声調符号は,子音文字の上(母音符号があればその上)につける。
子音文字
子音字は,第1系列と第2系列からなっており,それぞれ 19 種ずつ,合わせて 38 種ある。
母音符号
母音符号は 19 種ある。
声調符号・その他符号
声調符号には,第1声調符号,第2声調符号の2種がある。声調符号は,平滑音節の単語にのみ用いられ,停止音節の単語には用いられない。
テキスト
TaiHeritage:SIL Tai Dam |
ユニコード
黒タイ文字のユニコードでの収録位置は U+AA80..U+AADF である。フリーフォント Noto Sans Tai Viet
注
- ^ 佐藤博史 (2001)「黒タイ文字」河野六郎, 千野栄一, 西田龍雄 編著『言語学大辞典 別巻 (世界文字辞典)』三省堂, p. 391.
- ^ 樫永真佐夫 (2011)『黒タイ年代記』東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所, p. 11.
関連リンク・参考文献
- Tai Dam language
- Omniglot: Tai Dam alphabet
- Tai Dam Language, Literatur, and Culture: SEAsite Tai Dam
- 樫永真佐夫 (2013)『黒タイ歌謡 〈ソン・チュー・ソン・サオ〉 ―村のくらしと恋― 』東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所
- 樫永 真佐夫 (2005)「ベトナムの黒タイ村落における固有文字の継承『ことばと社会 : 多言語社会研究 9』
- 樫永 真佐夫 (2000)「ベトナムにおける黒タイ語表記の変遷:少数民族の文字文化」『ベトナムの社会と文化 2』