タイ・ナ文字 傣哪文字,英 Tai Na script
雲南省徳宏傣族景頗族自治州を中心とする諸県に住む傣族が使用する文字で,德宏傣語を表記する。インド系文字で,古形ビルマ文字を基に作られたものと考えられる。
Buddhist texts written in Tai Le script. [三猎 / CC BY-SA 4.0 / 出典] |
この文字の作成年代は詳らかではないが,かなり長い歴史をもつものと推定できる。近年,文字表記面と德宏傣語の音素形式のずれを解消するために,字形の補足修正が行われている。1952 年 10 月に,「保山専区傣族文字改進委員会」が成立し,文字の改正をめざして,傣族知識人,宗教人などと共同研究を始め,さらに中国科学院語言研究所からも参加して検討が進められた。翌年,委員会は「傣族文字新方案」を作成し,その後,1954 年に中央政府の批准を経て,タイ・ナ方言使用区域内部で推進するようになった。
1955 年 12 月から「傣哪文字改進討論会」がもたれ「雲南省傣哪文字改進方案(草案)」が提出された。その方案は 1956 年に国務院の批准を受けたのち,傣族の小学校や雲南民族学院などで試験的に授業で使われた。現行のタイ・ナ文字の骨格はこの方案によるが,その後声調表記などの諸点が改められ,現行文字が成立した。
1953 年以前の文字を旧タイ・ナ文字,1956 年に作成された方案による文字を新タイ・ナ文字,そして,現在流通する文字を現行タイ・ナ文字と呼ぶ。[1]
文字構成
表音文字で,現行タイ・ナ文字では子音字と母音字を組み合わせ,それに声調記号をつける。子音字は,1字形が1単音を表示し,インド系文字の常として,単独に読むときには,-a 母音をつける。CVC/T 音節の各位置にあたる字形を,「子音字+母音字+(子音字)+声調記号」の順で左から右へ並べる。
新(現行)子音字
旧タイ・ナ文字では,ph- と f- の両音素の表記に同じ文字を用いたが,新(現行)タイ・ナ文字では,その文字を ph- 専用にし, f- に対して,特定の字形を作った。
新(現行)母音字
末尾子音との結合形 [2]
旧タイ・ナ文字では,短母音 -a と長母音 -aa に同じ文字を用いたが,新(現行)タイ・ナ文字では書き分ける。また,旧タイ・ナ文字では,-u および末尾子音を伴う i, e, ɛ に対しては同じ字形を使ったが,新(現行)タイ・ナ文字で 3 形式に書き分ける。
声調符号
1956 年案では声調を表す文字を用いたが,最近ではそれらが別の符号と置き換えられ,音節末尾に添加される。
声調表記例
テキスト
新タイ・ナ文字文例
新タイ・ナ文字 [西田(2001),例文の作成には,フリーフォント Microsoft Tai Le を使用。] |
現行タイ・ナ文字文例
現行タイ・ナ文字 [西田(2001),例文の作成には,フリーフォント FreeSerif を使用。] |
文字入力
ユニコード
新タイ・ナ文字のユニコードでの収録位置は U+1950..U+197F である。
注
- ^ 西田龍雄 (2001)「タイ・ナ文字」河野六郎, 千野栄一, 西田龍雄 編著『言語学大辞典 別巻 (世界文字辞典)』三省堂, pp. 569-573.
- ^ 周耀文 (1992)「德宏傣文」『中国少数民族文字』中国社会科学院民族研究所主編,中国藏学出版社. p. 80.
関連リンク・参考文献
- Tai Nüa language | 德宏傣语
- 中西コレクション (国立民族学博物館)タイ・ナ文字
- Omniglot: Dehong Dai script