タイ・ロ文字 傣仂文字,英 Tai Lue script
タイ・ルー文字とも呼ぶ,現在,中国雲南省の傣族の間で使われている文字で,正確には [tai51lɣ33] と呼ばれる。傣族自身は,この文字を西双版納傣語あるいは徳宏傣語と呼ぶ。系統は,南インド系表音文字の 1 つであり,ビルマ・シャン州のタイ・クーン文字,タイ・ユアン文字(通称チェンマイ・ラオ文字)などと同系統である。
西双版納傣語の歴史書によると,傣暦 639 年(西暦 1277)に和尚トゥインダ(Tuyinda)が,鉄筆をもって,多羅樹の葉に tham41「経典」を刻んだのだ始まりで,以後その文字が伝えられたとある。それらの経典は,貝葉(ばいよう)経と呼ばれる。したがって,この文字は仏教の伝播とおおいに関係し,13 世紀に,今のタイ国北方にあったランナータイ国を経て伝来したものと考えられる。この古いタイ・ロ文字で書かれた大量の貝葉は,傣族の文化を伝える重要資料で,その中には漢文の翻訳,インド仏典の訳などのほかに,傣族の史書,天文暦法書,数学書,医学占卜書,法律道徳の書や農田水利に関するものも含まれる。民間文学も多種類に及び,ラーマーヤナとの関係が問題にされる『蘭嘎西賀』(十頭魔王)は,3万余行からなる大部の叙事長詩で,22 章 88 節に分けられる。しかし,それらの旧文字文献は,いずれも手書きであり内容も難しく,読む人は限定されていた。
中華人民共和国成立(1949)以後,旧文字の改革が実行された。1953 年1月に傣族自治区の人民政府が設立され,同年8月に開かれた第2回西双版納自治区各族各界代表者会議の席上,旧文字を改良することが決定された。1955 年には中央国務院の批准を経て「西双版納傣文改進方案」が試行され,現在その方案に基づいて大幅に改良された文字法が普及している。なお,1955 年以前の文字を旧タイ・ロ文字(西双版納老傣文 [1]),改良された文字を新タイ・ロ文字(西双版納新傣文)と呼んでいる。 [2]
文字構成
子音字
子音字は,高音字と低音字の2つの系列をもつ。高音字は a 短母音と高平調で読み,低音字は aː 長母音と高降調で読む。
母音字
母音字には,短母音を表記する字形と二重母音を示す字形がある。
単母音字
短母音には a, i, u, uː, e, o, ɔ, ɯ, ə を示す字形があり,子音字の前か後に置く。
二重母音字
末尾子音字
殺母音符号(母音を含まないことを示す)末尾子音専用文字。
声調符号
タイ・ロ語には 6 種の声調がある。高音字の短母音音節が 2 声 35 型をとる場合のみ声調符号をつけるが,それ以外はすべて声調型が自動的に決まるため,声調符号をつけない。
声調符号 例
テキスト
タイ・ロ文字文例
[巫凌云, 张秋生 (19819『西双版纳傣语文概况』[昆明] : 云南民族出版社. 文例の作成には,フリーフォント Microsoft New Tai Lue を使用,] |
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ユニコード
タイ・ロ文字のユニコードでの収録位置は U+1980..U+19DF である。
Free Font: Dai Banna SIL Light
注
- ^ 傣仂文字母表 出典:罗美珍 (1992)「西双版纳傣文」『中国少数民族文字』中国社会科学院民族研究所主編,中国藏学出版社.
「五十年代以后成长的傣族知识份子多数只新傣文。他们对本民族的传统文化知道得少,根底浅。傣族人民担心本族文化失传,因此1986年作出恢複使用老傣文的決定。」 - ^ 西田龍雄 (2001)「タイ・ロ文字」河野六郎, 千野栄一, 西田龍雄 編著『言語学大辞典 別巻 (世界文字辞典)』三省堂, pp. 574-579.
関連リンク・参考文献
- 中西コレクション(国立民族学博物館)タイ・ルー文字
- Omniglot: New Tai Lue script
- Information about Tai Lue, and more sample texts: Tai Lue
- 刀兴平[ほか]翻译整理 (1981)『兰嘎西贺 : 傣族神话叙事长诗』昆明 : 云南人民出版社.
- 岩温等整理 (1990)『傣族叙事长诗 十二头魔王(兰嘎西贺)』北京 : 中国民间文艺出版社.