日本語・ポルトガル対訳絵本「日本の童話」 第一回読み聞かせ
日時:2014年2月21日(金)
会場:長野県塩尻市ブラジル人学校「ロゴス」教室
報告
在日ブラジル人児童の母語と日本語の勉強に役立つ絵本を作ろう!と、地球ことば村と東京女子大学・松尾慎先生がアドバイザーを務める同大学学生有志団体「ぱずる」がコラボレーション団体:「ぱずる—日本在住ブラジル人児童の成長を支える会」を作り、全日本社会貢献団体機構の助成を受け、半年間の編集作業を経てきれいな対訳絵本を制作。できたばかりの絵本を手に、松尾先生と学生さん3名、ことば村の小林理事・小幡事務局の6名は塩尻のブラジル人学校「ロゴス」へ。駅から、校長先生・後藤 パウロ ヒデキ牧師さんが運転してくださるミニバンの両脇は一週間前の大雪がまだそのまま、1メートルを超す白い壁がきらきら光っていました。
到着したロゴスは、2003年開校。空き工場を借りて校舎にし、現在幼稚園から高校生までの子供たち24名が学んでいます。6歳で小学校入学、8年制というブラジルの学制をとり、ポルトガル語による授業に加えて週に2回日本語の授業を行っています。廊下にはたくさんの絵やポスターが飾られ、とても明るい雰囲気。
私たちは二手に分かれて、小学校4年生から6年生のクラスと中学生・高校生のクラスで読み聞かせをしました。まず、生徒さんたちの日本語による自己紹介。続いて私たちが、ポルトガル語を話す人はポルトガル語で、話さない人は先生の通訳付きの日本語で自己紹介。小学生クラスのこどもたちは目を見張って楽しそうに、中高生クラスは少し恥ずかしそうに聞いてくれました。
小学生クラスは、最初に「おむすびころりん」です。東京女子大グループ2名の日本語と担任の先生のポルトガル語訳を交互に。続いて相馬泰三の「背丈くらべ」のポルトガル語は子供たち自身で。「ホントにあったことなの?」と、とても面白がってくれて、この本、ほしい!と口々に。たくさんあるから大丈夫よ、と先生に言われて嬉しそうでした。
中高生クラスは、新見南吉の「あめ玉」を朗読グループの日本語と、生徒さんたちのポルトガル語で。内容に入り込んで、自分ならどうする、と考えたりしました。その後、日本の大学について、受験方法や入学後の生活などについて朗読グループ女子大生がレクチャー。生徒さんたちは真剣に聞き入ります。日本での進路について実際の話を聞く機会はあまりないことがうかがえます。校長先生によれば、ロゴスの卒業生のほとんどはブラジルの大学に進むとのことでした。
この「ロゴス」は市内や隣接する松本市や諏訪地方の製造業に勤める在日ブラジル人の児童のために作られました。最盛期はこの地域に1800人いたブラジル人は不況で帰国するケースが増え、今は200人になっているそうです。ロゴスの生徒も一時は56名在籍していましたが、現在は24名。市内唯一のブラジル人学校として、3万円の月謝のほかロータリークラブの寄付などで運営されていますが、大変厳しい状況で、先生たちはほとんどボランティアの状態だということです。「ロゴス」には運動スペースや楽器の弾けるホール、幼児用のプレイルームもあります。でも、日本の公立校などに比べれば恵まれているとは言えない環境で、子供たちや先生たちはとても明るく、笑顔を絶やさずに接してくれました。
ことば村の見学ツアーで2011年11月に訪問した群馬県太田市の母語保持教室「Vamos Papear(ポルトガル語の会)」の子供たちは、地元の日本の学校に通っていて、友達などとの会話は日本語、そうした中で、母語を保持するための教室に週一度通う、というものでした。それに対して「ロゴス」はブラジル人学校として、母語のポルトガル語がつかわれているため、太田で出会った子供たちのようには日本語を話しません。私たちが制作したこの対訳副教材「日本の童話」は、ポルトガル語を学ぶにも、日本語を学ぶにも役立ててもらえそうで、ぜひ多くの在日ブラジル人児童に読んでもらいたいと思いました。
「日本の童話」が、ひとりでも多くの子供たちの「ことばの財産」を増やしてもらえたら本当に嬉しいことです。
以上
文責 事務局
★ 全日本社会貢献団体機構2013年度助成事業
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