地球ことば村
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【地球ことば村・世界言語博物館】

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ことば村・言語学ゼミナール

言語学ゼミナール(7)
▼言語学ゼミナール

 


● 2009年3月21日(土)12時30分-13時30分
● 慶應義塾大学三田キャンパス大学院棟334教室
● 座長:金子亨(千葉大学名誉教授・言語学)



 前回は新しい参加者が何人かおられたので、ことば村言語学ゼミを始めた動機とか司会者の心づもりなどについて話しました。そのために予定した話がほとんど先送りになってしまいましたが、改めて初心を思い出すのはよかったと思います。

 さて、言語知識表現は形態のクラスに分類されます。

 形態素を分類するという試みで今日もなお考慮されなければならないのは服部四郎1950(「付属語と付属形式」『言語研究』15号、『言語学の方法』岩波 1960, pp.461-491)です。この分類は、日本語を含めてさまざまな言語に適用可能です。

 形態素 morphemes(有意味な最小形式)から出発して次の類が分類されます:
a) 語(彙):自立語、付属語、付属形式
b) 接辞 affixes(接頭 pre-、接尾 suf-、接中 in-、周接 circum-fixes)
c) 小辞・倚辞・接語 clitics:古印欧語で自立的アクセントのない小語

 この服部1950の分類のうち、まず「単語」に注意してみましょう。単語は付属語と自立語に分かれます。このうち付属語というのが彼の提案で珍しいものです。たとえば「見せられた、見させられた」という表現では自立語の「見、見せ」と付属語の「させ、られ」が結びつき、それに付属形式の「た」がついています。この分類基準ではこのような分析になります。しかし別の基準を立てることもあります。たとえば国立国語研究所が開発中のKOTONOHAでは「大・小単位」という二文節単位を立てていますが、さらにその小単位内部を分節すると、このような形式の区分が出てくるでしょう。しかしことはそう簡単ではありません。動詞「見る」を例にとると、さらにやっかいな問題が見えてきます。

「見る」の形態論

 『国立国語研究所報告43.動詞の意味・用法の記述的研究』国立国語研究所 宮島達夫編著 秀英出版 初版1972. 761 pp.から、索引(語彙)「み」項のミルに関係する語をあげてみます。
「みあげた 676、みあたる 25, 681~682、みいだす 219~220, 683~684、みうしなう 426、みえすいた 676、みえる 229, 652, 659, 662~663、みかける 439~440、みかねる 426、?みくびる 425、みせる 424, 673, 700、みつかる 25、みつける 219, 220, 684、みつめる 479~481, 719、みてとる 426、みとめる 219、みなす 350、みのがす 426、?みまう 466~465、みまごう 678、?みまわれる 723~724、みる 326~327, 439~440, 654~664, 577, 684, 700 」
(参考:『ことばの意味』柴田武・国弘哲弥・長嶋善郎・山田進・浅野百合子(2,3)(1巻1976, 2巻1979, 3巻1982.平凡社選書各47,66,73)では2巻pp.70-77に「ミル・ナガメル・ミツメル」がある。ここではこれらの語の間に「「網膜の3領域」「辞書の定義」「対象物」「心的態度」に差があると主張」)

 上の表を整理してみます。
(a) 派生形容詞:みあげた、みえすいた
(b) 合成動詞
 (1) [V mi=V]:みあたる、みいだす、みうしなう、みかける、みかねる、みのがす、みまごう
 (2) [V mi=v]:みつける、みつかる、みつめる、?みとめる、みなす
  ここで V :独立語彙要素(生産的)
      v:非独立語彙要素(同音語との意味の乖離)
(c) テ形:みてとる >(mi-te toru)
(d) 異語幹:?みとめる(mitome-)、?みまう(mimaw-)、みまわれる(mimaw-(r)are-)
(e) 派生動詞:みえる、みせる、みる
但し、ここで「=」は合成的結合を、「-」は派生的結合を示すことにします。

 次にこれらの語の内部の形式構造を調べてみます。

派生動詞の構成
 語構造   共通語根   派生接辞
mi-e-Ru    mi-     -e-
mi-se-Ru          -se-
mi-Ru            -φ-

ここで使用された形態素morphemes:
 mi-:視覚認知
 -e-:非意志性自動詞(「非能格・非対格」)形成接辞
 -se:使役他動詞形成接辞
 -Ru:非過去時制接辞 -Ru> -ru 但し、母音音素の後
               -u     その他の条件

接尾辞複合動詞の構成
 合成動詞構造:語根+自立動詞語幹+派生接辞n+時制接辞
        mi=age-Ru>みあげる
 テ形合成動詞:語根+テ+自立動詞語幹+派生接辞n+時制接辞
        mi-te to-Ru>みてとる
 テ形接合動詞:テ形合成動詞と同構造
        例:mi-te mi-Ru みてみる

接頭複合動詞の構造
この類の複合動詞はあまり生産的でないようです。名詞抱合もわずかです。とくに「ゆめみる」は抱合的ですが、他動詞のままです。
 例:ゆめみる、?わきみる、かえりみる、かいまみる、(古)うちみる、(古)ふりさけみる
 参考:接頭合成名詞:よそみ、たちみ、etc.

 言語形式の形態的分類の問題にもどります。「見る」の形態分析からすると、次のような問題があります:
1)動詞語彙が自立語であるには時制終始語尾「る・た」までが現れなくてはならない。ではそれは自立語と言えるのか?
2)語根、語幹とそれに接尾・接頭する形態素が自立形式の内部に現れる。この要素はそれ自身が自立語・付属語、付属形式であり得る。では自立語内部要素はどんな形態単位なのか?
3)動詞語彙については自立語という形式単位は統語単位(移動可能)の認定としての意義があるにすぎないか?
4)付属語は統語単位としての意義があるのか?
5)以上は動詞語彙以外の語彙についても言えるか?

(金子 亨)