● 2009年4月18日(土)12時30分-13時30分
● 慶應義塾大学三田キャンパス西校舎514教室
● 座長:金子亨(千葉大学名誉教授・言語学)
「ムカウ」の形態論
(「ミル」の形態論のつづき)
こんな問から始めてみます:次の二番目の歌の「ムカウ」はどんな動詞(自動詞?方向動詞?非能格動詞?意志動詞?行為動
詞?…)
「汽車の窓 遙かに北に 故郷の山見えくれば、襟をただすも」(前の歌=文脈)
「故郷の山に向かいて言うことなし 故郷の山はありがたきかな」(石川啄木)
この「ムカウ」の意味を『広辞苑』(第一版8刷1960、但し、第一版1冊は1955)で調べてみます。
むかう → 「むこう」の口語
むこう(はひふふへへ)【向ふ、対ふ】自動詞ハ四
- 顔をその方向に回している
- おもむく、出向く「東京に向かった」
- はむかう、さからう、抵抗する
- 肩を比べる、相当する、匹敵する
- 近づく、なんなんとする
- 対する
- (取引用語)取引人がみずから客の注文に対して相手になって売買する。客に売向かう。
以上で例を全て略。その例は2、7以外すべて万葉集から。
ここであげられた意味の違いを整理してみます:
(1)「むこう」の語幹:*mukap- > mukaw-
但し、 *p>
> h,w,Φ
(2)「むこう」の弁別的意味特性
1(顔をその方向に回している)versus 2(おもむく、出向く)
即ち:「対峙状態」versus「対峙進行行動」(relational state :agentive act)
(3) 意味の派生:3~6 < 1 versus 2
派生の条件:3~敵対関係の場が前提
4~対比関係の場が前提
5~時間関係の場が前提
6~状態性の場が前提
(4) 派生語
派生接尾辞:むかえる(迎える)mukaw=e-Ru
nota bene: -e- :mi-e-Ruの派生接辞と同じ?
mukaw-:自動詞(ニ格補語)
mukaw-e- :他動詞、但し、対象(theme)が向こうから来る → 態genus的に対応?
接頭辞:たちむかう tati-mukaw-Ru:非自立的接頭辞なので、抱合ではない。
ここで「ミル」「ムカウ」の形態論をまとめておきます:
|
語根 |
語幹派生 |
項 |
意味の特性 |
ミル |
mi- |
-e- |
theme(ガ)+ patient(ニ) |
視覚認知状態 |
-Φ- |
actor(ガ)+ theme (ヲ) |
視覚認知行為 |
-se- |
actor(ガ)+ theme (ヲ))+ patient(ニ) |
視覚認知使役行為 |
ムカウ |
mukaw- |
-Φ- |
object (ニ)+ patient(ガ) |
対峙状態 |
-Φ- |
actor(ガ)+ object (ニ) |
対峙進行行為 |
参考:中国語形態論
語根と語幹とを区別しにくい言語もあります。このような言語では次のような一般的な形態素の形式的分類が有効であるようには見えません。
形態素 morphemes(有意味な最小形式):
a) 語(彙);自立語、付属語、付属形式
b) 接辞 affixes(接頭pre-、接尾post-、接中 in-、周接 circum-)
c) 小辞・倚辞・接語 clitics:古印欧語で自立的アクセントのない小語
中国語はそのような形態的区別をもたない言語だと言われてきました。
しかしいまでは中国語にも次のような形式の別を認める考え方があります。<木村恵介『中国語における動補型複合動詞』2007:
1) 付属形式:
(1) 語根(-房-、-民-、-物-、-室-、-寒-...)
(2) 疑似独立形式(氷、油、人、路、菜、牛、...)
(3) 屈折接辞(-了、-着、-達、-得、-的、...)
(4) 派生接辞(初-、第-、老-、;-几、-子、-頭、-们、...)
2) 独立形式
(5) 語(書、我、給、你、...)
(6) 文節(那本書、我給你.、...)
(7) 文(那本書我給你、...)
分析用の例文:
「陆丙甫(2008)在谈到汉语“的”和日语“の”的区别时,认为汉语“的”是描写性标志,日语“の”是指别性标志,并认为据此可以解释日语
“遠い”、“近い”、“多い”
等形容词通常使用连用形后加“の”做定语,而很少直接做定语修饰(具体)名词这种语言现象。的确,日语“の”在很多时候具有指别性,但也正如陆文所提及,
日语“の”的使用具有很大的句法强制性,因此,能否明确断言其为指别性标志,笔者以为尚有探讨余地,将另撰文讨论。在此,仅就陆文中使用的几个日语形容词
的连体用法进行探讨,并进一步论证日语形容词连体形做定语时的句法语义特征。」(湖南大学 張佩霞)
(金子 亨)
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