地球ことば村
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「言語ヒッチハイクガイド」


松岡亜湖 小学校教諭・名古屋市在住

「言語ヒッチハイクガイド」目次へ

 こんにちは。早いもので秋の虫もにぎやかな季節になりました。皆さん、夏を如何過ごされたでしょうか?私は夏の帰省で行きは飛行機、帰りは夜行バスを使いました。家に近い地元のバス停が利用できて便利なのですが、売店はありません。そこで、お土産は(ズボラして)通信販売を利用してしまいました。今は身軽な移動ができて便利です。
 大人数の土産を買うと結構な荷物になるため、普段は余分なものは買わないのですが、今回は運んでもらえます。そこで、自分用の水菓子も購入しました。『土佐の日曜市』という果物ゼリーです。学生時代を含めて駅の売店で何度となく見ているのですが、持ち歩くと重いし土産にはかさばることがあり、購入は初めてでした。
 開けて驚きました。包み紙が、高知の方言(土佐弁)絵本『にちよういち』(西村繁男(作・絵)(1979)、童心社)のイラストだったのです。何とも言えない味わいがありました。


外装です

開けるとこんな感じ。個人的には小夏ゼリーがお気に入り


 土佐の日曜市(高知城下の大手筋に並ぶ街路市)には、300年以上の歴史があります。ぜひ現地で、土佐弁も含めて雰囲気を味わっていただけると嬉しいです。
http://www.city.kochi.kochi.jp/soshiki/39/nichiyouichi.html


 さて本編のお話との関連でご紹介したいのが、「みんぱくウィークエンド・サロン」です。国立民族学博物館へは、何度か行ったことがありましたが、ウィークエンド・サロンの参加は初めてでした。
 タイトルは「言語から歴史を読み解く――南アジアを例にして」、話者は民博助教の吉岡乾さん。左の言語分布図を作られた方です。フィリピンの言語(少数言語含む)も結構な数(日本外務省のウェブサイトによれば80前後ですが、文字なし言語を入れていないと思われます。実際には倍以上あるはずです)だと思っていましたが、インド・パキスタンの言語のバラエティの豊かさには舌を巻きました。細かい!!
 歴史言語学とは、個別の言語の過去の文字や口伝を研究してその変化を明らかにする言語学だそうで、英語の方言を調べていた私にとって、とても興味深い内容でした。例えば、日本語の共通語では「花(hana)」「火(hi)」と、H(声門音・摩擦音)の発音になる言葉が、琉球諸語の一部だと「花(pana)」「火(pi)」とP(両唇音・破裂音)の発音になるそうです(「fa」になる地域もあるとのことです)。HとPでは、唇を合わせる/合わせないという違いがあり、口の形の違いに注目すると音声学的には「発(hatu)」と「一発の発(patu)」は関連は薄いはずですが、音声以外の要素も加味して考えると半濁音から清音に変化した可能性(古語の名残)が窺える、とのことでした(日本語の方言は、東京・大阪から離れるほど、古い形になるそうです)。
 そんな導入から、南アジアの諸言語の比較や変化についての話となりました。南アジアの言語の語彙から社会や文化の歴史を考える話はとても面白かったです。例えば、ブルシャスキー語には「ヤク」に当たるbepayは固有の単語としてあるけれど、「仔ヤク」に当たるzoは借用語だそうです。ということは、「仔ヤク」にあたる固有の単語dzoがあるバルティ語圏の方が、ヤクと生活の関わりがより深い、ということでした。なお、ブルシャスキー語は無文字言語です。このため、上の単語の表記は発音に基づく便宜上のローマ字表記であることを申し添えておきます。
 言語ヒッチハイクの第三回でフィリピンの言語(タガログ語とビサヤ(セブアノ)語)の歴史的変化や、フィリピンの山岳地帯のティグラヤン語・ルプルパ村方言(無文字言語だそうですので、これも原書はローマ字(タガログ)借用表記とのことです)に少し触れようと考えていたので、生活や文化の違いを反映した単語の違い、借用による言語の変化のお話は、とても参考になりそうです。みんぱくのセミナーなどまたの機会に、より詳しいお話を伺えるのを楽しみにしています。


 今回は、地域や時代による言語の変化の話です。参考文献は『On the Streets of America』(ボイエ・デ・メンテ 編著(2002)、DHC出版)と、『アメリカ英語方言の語彙の歴史的研究』(後藤弘樹 著(1998)、中央大学学術図書館)です。発音については、『国際音声記号ガイドブック』(国際音声学会 編、竹林滋/神山孝夫 訳(2003)、大修館書店)を参照しました。言語の変化の追い方については、吉岡さんの南アジア諸言語の分析のお話を、英語と米語の違いについては東京外国語大学のサイトを参考にしました。



2.昔話をどう語る?方言を英語で文字翻訳できるのか


洋画に登場、“Englishes”

 一口に「英語」と言いますが、国や地域による差があり、全く同じ言語にはなりません。というのは、ことば村ウェブサイトの読者の皆さんの多くがご存知のことでしょう。副理事長の井上逸兵さんも、『世界の英語と社会言語学~多様な英語でコミュニケーションする』(ヤムナ・カチュール+ラリー・E・スミス著、井上逸兵+多々良直弘+谷みゆき+八木橋宏勇 訳(2013)、慶應義塾大学出版会)で”Englishes”に触れています。英語の変化や訛りのタイプは国・地域の数だけあると思います。
 私はミステリが好きなので、洋画を見ながら、アメリカ・ロス警察のコロンボ警部の話す英語と、イギリス・デントン警察のフロスト警部が話す英語と、ベーカー街221bのシャーロック・ホームズが話す英語と、それぞれ違うな~、というようなことを感じます。日本語で例えて言えば、コロンボ警部は赤かぶ検事(名古屋弁)、フロスト警部は『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の両津勘吉(庶民派の江戸っ子)、ホームズは『相棒』の杉下右京(丁重な標準語)のイメージと言えましょうか。とにかく、口調や発音や単語選択が全然違うのです。米語と英語の違いについては、東京外国語大学のこちらのサイトで「会話」をクリックして聴き比べていただくと、雰囲気を感じていただけるかと思います。
http://www.coelang.tufs.ac.jp/mt/en/comparison/usuk_p/#chapter1

 学生時代の私の耳で聞く限りでは、例えば「come」を米語では「カム」、英語では「コム」と発音している印象でした。上のサイトによれば、『"lot"などの語の母音は、アメリカ英語においては、長母音/ɑ:/で、イギリス英語では短母音/ɒ/である。このふたつの母音を発音する際の舌の構えはほとんど同じであるが、前者は唇を丸めないで発音するため、聞こえは「アー」に近いのに対し、後者は唇を丸めて発音するため、聞こえは「オ」に近い。』とのことなので、何となく「ア」と「オ」の違いを聞き分けてはいたのだと思います。ただ、今になってコリンズ辞書 http://www.collinsdictionary.com/dictionary/american/car?showCookiePolicy=true で「come」のアメリカとイギリスの発音を聞き調べたら、大差がないので、ちょっと動揺しています。勘違いも混ざっていたかも……。ともあれ、英語と米語は、母音・子音・単語に違いがあります。上のサイトの1~4にある通りです。『国際音声記号ガイドブック』の解説によれば、イギリス内の方言差は大きく、アメリカ内の方言差は小さいようです。これは、何となくの印象ではありますが、私のBBC(イギリス国営放送)やCNN(米国ケーブルニュースネットワーク)視聴時の印象とも一致します。そうそう、刑事コロンボ・第二シリーズ13話「ロンドンの傘」では、アメリカ人のコロンボ、スコットランド・ヤードのダーク刑事部長、ロンドンの警官(訛りあり)の会話が登場します。マクベスの台詞が聞けることもあり、お気に入りの回です。英語・米語・各種方言の違いについては、可能なら、事前にもっと耳を鍛えた上で、米英双方の現地を数か月間ウロウロして実際に確かめてみたいものです。

 ちなみに、フィリピン英語はFをPで発音します。フレンドがプレンド、ファミリーがパミリヤ。短期滞在なら、英語もフィリピノ語もローマ字読みに近い発音で充分通じました。FをPで発音するフィリピン人の集まった場所で、「5」を「パイブ」で発音すると、ぐっと親近感が増す筈です。ただ、これは10年前のお話。「タグリッシュ(タガログ語に英語を混ぜる)」という使い方も登場する今は、英語の時は英語風の発音をする方が多数派になっているかもしれません。いずれにせよ、文字上はFをPに書き換えているわけではありません。タガログ語のアルファベットはa b k d e g(ア・バ・カ・ダ・エ・ガ)で始まり、CとFがないので、話し言葉では発音が置き換えられるようです。また、uとoが混ざりやすいのか、私の苗字は「マチューカ」になり、呼び辛そうでした。「シューマイ」も言い辛い(綴り辛い?)らしく、9月19日にセブ島で開催されたのは、「Siomai Festival」です。

 そんなわけで、耳で聞くと英語には国・地域によってかなりの違いがあります。では、この違いを、米語や英語で、字面で表すとどうなるでしょう?日本語だとこんな判定 https://ssl.japanknowledge.jp/hougen/ が可能です。土佐弁と名古屋弁と三河弁がみごとドンピシャで出たのには驚きました。英語では如何でしょう?そこまではっきり分けて判定が可能でしょうか?というところで、前回の民話の英訳の話題の続きに入ります。


「どえりゃあ、えらい」を英語で言うと?

 上の言葉、意味がすぐ分かった方、どれだけいらっしゃるでしょうか?高知出身の私は、初めて「どえりゃあ、えらかった!」と言われたとき、「何を自画自賛してるの?」と面食らいました。「どえりゃあ」=「とても」、「えらい」=「偉い」と解釈したのですね。この後半の「えらい」は「疲れた」の意味です。「どえらい、えらい」は、「程度が甚だしい」の意味の「えらい」と、「身体的につらい」の「えらい」の同音異義語になり、両義とも大辞林に掲載されているので、そもそもこの用法を方言扱いにするのが妥当かどうか、厳密な判断は難しいところです。
 ですが、「どえりゃあ、えらい」は、「日本全国どこででもすぐに通じる日本語」ではないのは、確かです。ここでは、「どえりゃあ、えらい」の英訳として、”I’m very tired.”や”I’m exhausted.”でいいのかどうかを考えようとしたのをきっかけに、いろいろ調べて分かったことについて、ご紹介します。

 これは、前回と同じく、名古屋・笠寺の街の魅力を英語圏の方にも紹介しようという企画の中で登場した話です。当初、「この話を英語に翻訳したい」と打ち合わせに登場した作品は「竹千代(徳川家康)の人質交換記」、「講談宮本武蔵」の2作、続いて「かさでら物語」という民話集も話題に上りました。(こちら↓)
http://machiwiki.sakura.ne.jp/modules/pico/index.php?content_id=11

 前者2作については、直訳しても意味をなさないし、歴史上の人物や愛知県内の地名を英語圏の皆さんが全く知らない可能性が高かったので、山岡荘八『徳川家康』や、吉川英治『宮本武蔵』、英訳版『五輪書』などを読んで、注釈を加えつつ、英訳することをお約束しました(そこで苦労しているのは、前回のエッセイの通りです。ネイティブチェックで「年号は全部西暦の方がいい」などと言われるのですが、歴史物っぽくしたいので、どこまで和風を残すかの加減も考えどころです)。そして、一見簡単そうに見えるけど実はめっぽう難しい?と後から感じられたのが、「かさでら物語」です。冒頭はこのように始まります。

「むかし、むかしのことです。だいのなかよしの きんさんと ぎんさんが、かさでらの かんのんさんへ おまいりに でかけました。」

 日本人なら、「きんさんと ぎんさん」で、たいていの人は、どのくらい昔か想像がつきます。しかし、外国の方には、どう紹介したものでしょう?また、英語だとKinには「親族」の意味があり、Ginは……お気づきですね、お酒の「ジン」の意味になります。「きん」「ぎん」に、発音記号を付け、goldとsilverの意味に触れ……て説明しすぎると、結局、韻を踏む面白さ、テンポの良さのかなりの部分が削がれてしまいそうです。夏目漱石の「こころ」の英訳では、「Sensei」「Ojosan」がありなのですが……特にGinの「酒?」というのは引っかかりがあり、頭を抱えました。仕方ないんですけどね。フィリピンでは太郎さんが「ナス(=talong)?」となっちゃうのと同じく、偶然、一致しちゃったのですから。

 そして、方言!!お参りの後、きんさん・ぎんさんは「ひとやすみ しよまいか」と言い合います。みなさん、英語の方言、話せます?日本語なら、地元の方言、「まんがにっぽんむかしばなし」のようなイメージとしての方言、思いつくものはあるのではないでしょうか。
 しかし、英語の方言で、とっさに何か思いつく人は少数派ではないかと思います。私の知る限り、英語圏の昔話の本や日本の昔話の英訳本は、方言を使っていません。ですので、翻訳を検討した当初は、参考資料自体、全く思いつかない状態でした。
 洋楽を聞く人なら、アフリカ系英語の「you=ya」、「be動詞の否定=ain’t」あたりを思い浮かべるかもしれません。また、私は以前「カルメン・ジョーンズ」(オペラ「カルメン」の配役を全て黒人が演じるブラック・ミュージカル)を見に行ったのですが、ここでは「That’s Love」が「Dat’s Love」でした。しかし、双子のお婆様であるきんさん・ぎんさんは、アフリカ洋楽や悪女・カルメンのイメージではありません。だから、isn’t をain’tや、thatをdatに書き変えるのは、やめました。


えっ、これも方言?意外なところにジョークのネタが

 次に調べたのは、tiredを方言にできないかです。take a restだと、takeもrestも意味が広いので方言を調べようにも手に余りそうと判断して、「疲れたから休もう」で、「疲れた」の部分を方言か古語にできないかと考えました。まずは語源辞典を参照しました。 ちなみに、英英の語源辞典は、アマゾン・ジャパンで買うと古くて高価ですが、アマゾン・USで買うと、格安だし選べます。「疲れさせる」のtireがタイヤと同音異義、タイヤの語源を見ると、「iron plates forming a rim of a carriage wheel」です。そこで(元の話からは逸れますけど)、金、銀、鉄の金属シリーズでジョークのやりとりができないかなあと考えましたが、「金、銀、鉄(iron)→iron wheel→tire→tired」の流れを思いつきませんでした。これ、「風が吹いて桶屋が儲かる」的に喋らないとつながりそうにありませんね。。。tiredの古語はteorianですが、これでは「疲れた」の意味は伝わらないような気がします。表現としては、tiredよりexhaustの方が古そうなのですが、この単語を入れただけで、時代を感じさせることはできないでしょう。現代日本語だって、古くから残っている表現や地方発の表現はたくさんありますが、「朝顔」と書いたからって、その話が江戸時代の文学になるわけではありません。

 そんなこんなで、単語の置き換えをいったんあきらめ、まずは基礎知識を得るべく、方言全般を調べることにしました。『アメリカ英語方言の語彙の歴史的研究』には、イギリス方言のアメリカへの伝播について書いてありました。例えば、seeの過去形はsawですが、イギリス各地の方言ではseedといい、アメリカでもミズーリ、インディアナなどで使用されているそうです。イギリス南部の方言ではzeedという方もあるそうです(sとzは歯茎音・摩擦音で共通します)。また、helpの過去形(こちらは今は定型変化でhelped)は古くはholpが使われ、『マクベス』『リチャード三世』にも使用例があるそうです。どうしてseeは定型変化のままに、helpは不定型変化のままにならなかったんでしょう?人工語ではないはずの英語・米語の不定型変化と定型変化入れ替わることがあるのでしょうか。素人考えでは不思議に思えました。
 余談になりそうですが、「へええ!」と思ったのがflapjack(slapjackとも書き、パンケーキを指します。現在はhotcakeやpancakeの表現が主流ですが、ネットで画像検索すると、flapjackの語も「オート麦のビスケット」の意味に変化して使われているようです。SFの名手・フレドリック・ブラウンの短編に「おれとロバと火星人」という作品があるのですが、このロバの名前が「フラップジャック」なんですよ。(このウェブサイトの16番の短編です→http://www.aga-search.com/279-3-14fredricwilliambrown.html)つまり、この短編は、「パンケーキ」なんて名前の付いた「ロバ」の知恵が、宇宙人襲来から地球を救うという、二重仕掛けのギャグだったのね、ということが分かりました。ギャグの深みが理解できて得した気分なんですが、flapjackは、きんさん・ぎんさん少女時代の民話には、残念ながら、使えません(動物は登場しないし、パンケーキはないし、宇宙人も来ないし)。

 パラパラ見ていると、「えっ、これは方言的使い方なの?」というものがいくつかありました。例えば、study(熟考する)。洋画ミステリの現場検証の場面などで「証拠を吟味する」流れで警察官の台詞に登場することがあったので、「study=熟考する」は現代語でも通じるニュアンスかと思っていいましたが。。。方言的な使い方のようです。madを「angry」の意味で使うのも元来はイギリス方言で、今はアメリカでは用いられているけれど、イギリスでは「angry」の意味では使わないそうです。dad(お父さん)も元は方言で、ウェールズ語のtadが元だという説があるそうです。tとdは歯茎音・破裂音で共通、papaのpは両唇音・破裂音なので別、ということでしょう(popはフランス語由来です)。momは載っていなかったので、語源辞典を見たら「mom and pop」で載っていましたから、papaと同じくヨーロッパ言語由来かもしれません。そのmomが、アメリカの「mom and apple pie=いかにもアメリカ的な」というフレーズになっているのには「へえー」と思いました。
 面白かったのはonce(/wʌ́ns, wʌ́nts/)で、イギリス各地の方言が、oncetをはじめ、何と33種類!aince、eance、oncst、wance、yanceと見ていると、この発音の変化が、どんな時代・地域差によるものなのか現地で調べたら面白そうだなーと思いました。

 英語の方言は、当たり前ですが、綴りや意味が変化しています。シェークスピア作品がなかなか読めずにいる理由がひとつわかったような気がしました。何となく、欽定聖書とシェークスピア作品は、かなりの部分が現在と共通していると思っていたのですが、違いも少なからずありそうです。手書きの底本に知らない単語があったら、私ならその時点で解読はお手上げです。以前読みこなせずに積読になっていた『シェイクスピアの英語』(G.L.ブルック 著、三輪伸春・佐藤哲三・濱崎孔一廊 他 訳(1998)、松柏社)を読み返すと、語義の変化について詳しい記述があり、近世の英語の読み方が、少し理解できたような気がします。

 さて、アメリカ英語の地域差にも興味があったので、今度は『On the Streets of America』を参照してみます。ボストン英語を見ると、「are=aah」、「sisters=sistas」、「after=aftah」、「prepare=prepaah」で、[ɻ]を[ɑ]に変えるとそれっぽくなるのか~、と思ったまではいいのですが、これを書き換えて、「ああ、ボストン方言ね」と分かってもらえるのかどうか?何せ、英語の書き言葉で方言は、関連の参考書以外には全く見たことがありません。話し言葉ならともかくも、書き言葉の場合、「この日本人、綴り間違い多いな~。ああ、うっかりローマ字で書いちゃったんだね!」で終わるのではないかしら?
 ボストン英語には食べ物の独自表現もあり、「buffalo wings」(辛いたれを付けた鳥手羽の空揚げ)、「calamari」(イカのフライ)、「bisque」(クリームスープ)などがありました。名古屋にもピリ辛の手羽先がありますから、ボストン英語にはちょっと親近感を感じました。
 これは南部の英語が元ですが「moon pie」(マシュマロをチョコレートで包んだ菓子)、大きいみたいです。甘そう! http://lop.motd.org/?p=9499

 他には、スパングリッシュの紹介がありました。チカーノやヒスパニックの話す、スペイン語交じりの英語です。これは方言とは別物になりそうです。「hola」(こんにちは)、「matador」(闘牛士)、「madre」(お母さん)、「fiesta」(フェスティバル)、「pero」(でも)などでした。フィリピノ語と共通の借用語も少なからずありそうです。

 と、こんな調子で、結局いろいろ調べて時間がかかった挙句、「やるなら、方言を使いたい!けど、こんなに違う単語や綴りで通じるのか??」というところで足踏み状態に陥ってしまいました。宮本武蔵の言葉も難解で、まだ吉川英治の作品と五輪書の対訳本を読んで解釈している状態で、英訳開始に至るまでに長くかかりそうです。物語の理解には、土地の文化や日常語など、描かれていない背景も重要なんだなとつくづく感じます。知ってる筈の日本・名古屋と、随分学習した筈の英語の組み合わせでも、こんな調子です。世界には私の知らないことが、てんこ盛りでありそうだと実感します。


ミッケ!方言漫画に方言エッセイ

 そして、この記事を書く中で分かったことがいくつかあります。まず、吉岡さんの紹介で日本の漫画「ばらかもん」(日本語は長崎県・五島列島の方言)の英訳版には英語の方言が使われ、しかもアマゾンUSでの評価も高いことが分かりました。さっそく読み比べてみたところ、I=ah、you are・your=yer、isn’t=ain’tと、代名詞の置き換えであることが分かりました。やっぱり、この置き換えに落ち着くのね、そして英語の書き言葉の場合、方言でも変えすぎない方がいいのね、代名詞とbe同士の置き換えなら私でも書けそう、と思い、ちょっとやってみたのですが……。

【その1】~私たちのまちの笠寺一里塚。~   Our Milestone in Kasadera Town
 むかしむかしのことです。
 大の仲良しのきんさんとぎんさんが、笠寺の観音さんへお参りにでかけました。東海道の山崎村、戸部村を通り、ようやく観音さんの西門が見えてきました。道路の両側には、松並木が続いていて、木陰には、たくさんの露店が並んでいました。
 Once upon a time, Kin-san and Gin-san, buddy-buddy twin sisters went to visit the Kasadera Kannon temple. They walked through the Yamasaki Village and Tobe village along the Tokaido Road and finally, the west gate of Kannon temple came in sight. On the both sides of the sando, approach to the temple, they could see raws of old pine trees and many stalls in the leafy shade.

「きんさん、貸座敷で お茶でも飲んでひとやすみしよまいか」
「そうだなも、ぎんさん。きれいな星崎の松林を見よまいか」
ふたりは、そんなことを話しながら歩いていきました。
"Kin-san, let's take a rest and have green tea at the drawing room."
"Certainly, Gin-san, Watch the beautiful pine forest at Hoshizaki Town."
Two pretty girls walked and talked in this way.

 参道に並ぶお店からは、いろいろな呼び込みが聞こえてきました。
「ところてん ところてん 冷えとって うみゃあよー」
「おろく櫛 おろく櫛 あんたらあーが着けたら よう似合うよ。おふたりさん 買ってかないかんわ」
 The Sando-street vendors who sold foods or goods attracted customers here and there.
“Yummy yummy Tokoroten, jellied agar? So cold and light refreshment for the summer!”
“Oroku-kushi, lovely girls’ comb! They look perfect for you two. You twins, put the combs on to match!”

 あああ、そう都合よくIやyouやbe動詞が登場しない!「仲良しの双子」をbuddy-buddy twinにしたけど、buddyを血族に使っていいのか(辞書上は友達に使う例文だった)どうか分からない!どう考えたら座敷がdrawing roomになるのか、分からない!(設計室にならないの?「座敷」の意味で通じるの?)、ところてんの「寒天=agar」って、英英だと「寒天培地」の意味で出るけど、「食べ物としての寒天」ってことが伝わるかしら?「おふたりさん、買ってかないかんわ」のニュアンスを(我田引水で)「お揃いで買いなよ」としたけど、適切かどうか分からないし、直訳だと命令的になり過ぎるし。。。というわけで、日英翻訳に王道なし、と実感しております。

 吉岡さんとのやり取り後に、ふと思い出して、ロシア語通訳の米原万里さんや翻訳家の青山南さんのエッセイ集を読み返してみたら、方言の通訳・翻訳(日本語、英語、お国訛り、似非外国語と多岐に渡ります)に関わる話題がちょこちょこありました。以前読んだときには私が分かっていなかっただけで、文化ギャップの翻訳の苦労は昔も今も共通、ではなくて、インターネットのない時代の方が遥かに大変だったことが偲ばれます。ここら辺は引用元を当たるのに時間がかかりますし、かなり長くなるので、また次の機会に。脳を刺激することを考えても、やはり、人に聞くことは大切だと改めて感じました。


次回は、フィリピンの山岳地の民話絵本をご紹介します!

 笠寺は、8月8日に夏祭りがありました。
http://area.walkerplus.com/walker47/article/detail/ar0623100/le2240/20150810/2_201508100101521598/
 シルバーウィークには読書会Bools Honey(本のbookと笠寺蜜蜂プロジェクトに因んでいます)、かんのん広場(境内にて開催するオープンカフェ)、歌声喫茶も開催されました。
http://area.walkerplus.com/walker47/article/detail/ar0623100/le2240/20150919/2_201509192324591598/
 今年は家康が亡くなって400年だそうで、名古屋鉄道で、家康ラッピング列車(不思議な造語ですね、これ)が走り、家康生誕地の岡崎城では10/30~11/3に祭りがあります。この時期、笠寺では、28日にかんのん広場、10/31に寄席、11/6・7にジオラマ展示を行います。岡崎~鳴海~笠寺を鈍行列車で巡ると、三河弁と名古屋弁が混在して面白いです。ぜひ歴史の舞台、民話の舞台を実際に訪問して、雰囲気を味わっていただければと思います。有松・鳴海から笠寺の旧東海道の街並みは人気(じんき)がよく、小旅行にお勧めです。
http://www.nagoya-info.jp/education/model/narumi_arimatsu.html
 次回冒頭では、笠寺の寄席の様子を紹介したいなと考えています。

 さて、民族学博物館 http://www.minpaku.ac.jp/ のこの写真(右)。フィリピン・ルソン島の街、「ボントック」が登場します(民博では単語をクリックすると、ボントック語を含めたオーストロネシアの各国言語の聴き比べができます)。次は、フィリピンの言葉についてご紹介します。関連して、ボントックから更にバスで6時間先の山岳地の少数民族の村の美しい絵本をお見せします。どうぞお楽しみに!

【2015年11月20日掲載】


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