「言語ヒッチハイクガイド」
松岡亜湖 小学校教諭・名古屋市在住
こんにちは。早いもので年の瀬ですが、皆様如何お過ごしでしょうか。先日フェイスブックを見ていたら、京都市美術館別館・アートスペースにて、アジアの子どもの作品展があり、前回少しご紹介した泥絵の原画が見られるとの情報がありました。明日行くので、とても楽しみです。
前回の記事を書いた時点では、次は、フィリピンの言語や少数民族の文化についてご紹介する予定でしたが、昨今の情勢を受けて、内容を変更することにしました。3月に現地でいろいろなお話を伺えそうなので、フィリピンの言語や文化については、春以降にご紹介を延期いたします。
3.中東支援の現場より~
現地情勢と「アリババ」の意味合いの変化
今回は、日本イラク医療支援ネットワーク(JIM-NET=ジムネット)http://jim-net.org/ のご協力をいただきつつ、『アリババと40人の盗賊(アラビアンナイト)』、中東の情勢や現地との共生のための取り組みについてご紹介します。
小学校の先生である私は、『アリババ』と聞いて、時節柄もあり、まずは、牧歌的にも学芸会の台本『アイウエオリババ』を連想しました。中東には,まだ実際に足を踏み入れたことがありません。これからご紹介するのは現実の状況ですし、今の中東情勢は複雑ですから、雰囲気はかなり異なります。
ご参考までに、菊地寛版『アラビアンナイト(三)アリババと40人の盗賊』は、青空文庫で全文が読めます。http://www.aozora.gr.jp/cards/000083/files/43123_16872.html
ジムネットは、医療支援を行うNGOや関心のある医師のネットワーク団体です。イラクを中心とした小児がん・白血病治療の支援の他、2014年からイラク・アンバール県(ANBAR、県都はRamadi=ラマディ)からの避難民の支援をしています。
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「『アリババと40人の盗賊』から考えるイスラームの裏社会」
(特定非営利活動法人日本イラク医療支援ネットワーク 事務局長 佐藤真紀)
千夜一夜物語は、中世のアラブの王様シャーリアルが、王妃に裏切られ、全ての女性を憎むようになり、若い女と一夜を過ごしては、殺していたのを、美女シェヘラザードが辞めさせるために、夜な夜な面白い話をかたり、王は次の話が聞きたくてシェヘラザードを殺すのを思いとどまり、それが二百数十夜続いたという設定でいろいろな民話が語られる。シャーリアルという王様はどうも、アッバース朝のカリフ、ハルーン・アルラシドがモデルになっているらしい。
アッバース朝は、バグダッドを首都とし栄華を誇った。
カリフといえば、最近では、2014年に「イスラム国」がシリアのラッカを制圧し首都だと宣言している。
ラッカは、ハルーン・アルラシドが、お城を築いていたという。
私は、1995年にラッカを旅したことがあった。
アッバース朝は、円形都市でバグダッドから放射線状に伸び、ラッカにはバグダッド門とよばれる門があって、街道がつながっていた。王様が避暑に来るのに、街道にはナツメヤシが植えられ日よけになっていたという。
カッスルバナートというお城(現在は遺跡)は、王様が夜な夜な女を抱くための城で、アレッポ石鹸(注1)は彼女たちをきれいにするために作られたとラッカに住む人が教えてくれた。
「イスラム国」の連中がやっていることは、その時代(アッバース朝)にさかのぼる。イラクからヤジディ教徒(注2)が連れ去られ性奴隷として売られているのだ。今ラッカはどうなっているのか知る由もないのだが。
たとえば、アリババの話を見てみよう。『アリババと40人の盗賊』の主人公がアリババだが、イラクでアリババといえば、泥棒野郎!みたいなニュアンスがある。
2003年のイラク戦争以降は、イラクに出没する盗賊団のことを指すようになってしまったのだ。
戦争直後は、ヨルダンから、バグダッドに向かう街道で襲われることも多かった。私自身も、バグダッドからヨルダンに向かう途中で隊列を組んでいたらアリババに発砲されて襲われたことがあった。私たちの車は加速して逃げ切ったが、友人の乗っている車は襲われてしまった。ただし、金銭目当ての盗賊なので、お金を置いていけば命は奪われなかった。
数か月後に、ヨルダンで会議があり、イラクから出てきた友人の医師にアリババに会いませんでしたか?と聞いたら怒られた。
彼曰く「アリババと40人の盗賊。アリババは盗賊をやっつけた、いいやつだ。盗人呼ばわりはするな」。
なるほど、言われてみればそうだ。そこで早速調べてみると、子どもの頃読んだ千夜一夜物語とは、印象がずいぶん異なり、えげつない話になっている。アリババは、盗賊の洞窟を見つけ、今で言うパスワード「開けゴマ」を盗んで、入り込んで、金銀を盗んでいく。やっぱり泥棒じゃないか。お兄さんのカーセムは、もっと強欲で、アリババからパスワードを教えてもらい、洞窟にしのびこむが、お金に目がくらんで喜んでいるうちにパスワードを忘れてしまい、盗賊に見つかって殺されてしまう。しかも、体を切り刻んでばらばらにされる。そこで、モルジアナは、お兄さんの遺体を洞窟から運び出して、靴屋にきれいに縫い合わせてもらい、あたかも病気で死んだように見せかける。それでも盗賊は靴屋を見つけ出し、アリババの家を突き止める。盗賊は、油商人を装い、40人の部下を油壷の中に忍び込ませ、アリババに、一晩泊めてほしいお願いし、部下たちはツボの中で襲撃の時を待っていた。アリババの侍女が、盗賊たちが壺のなかに忍び込んでいることを知り、煮え立った油をかけられて40人全員殺してしまって、めでたしめでたしというお話である。まったくアリババというやつは…。
最近のニュースで「イスラム国」が臓器売買に手を出しているという話がある。
http://news.livedoor.com/article/detail/9801977/
見つかった遺体に大きな縫い目があり臓器が摘出されたというのだ。
実は臓器売買の話は、今に始まったことではない。
2005年ごろは、イラク警察に連行された人たちが帰ってこないので心配していたらおなかを裂かれた遺体が戻ってきたという話。写真を見せてもらうとのど元からおなかがざっくり裂かれて、縫い合わされている。サウジの新聞によると腎臓が40ドルで売買されたというのだ。アメリカ軍も臓器売買にかかわっていて、そういった臓器はアメリカに送られているということも書かれていたが、真実はわからない。経済制裁のころイラクでは、生きた人間の腎臓が500ドルで取引されていたというから、ずいぶん安いし、「医療」とは一体なんだろうかとなんとも複雑な気持ちになる。「イスラム国」は、そういった今までの人類が積み重ねてきた悪事を踏襲しているのだろうか。
ヨルダンの町なかを歩いていると靴屋にであう。壊れた靴でもきれいに直してくれる。上手な靴屋は「アリババ」に連れて行かれ、ラッカやモスルで遺体を縫わされるかもしれないなと思ってみたりするのだ。
(注1): アレッポ石鹸はシリアアレッポ地方の特産品として古代から製造されてきた。オリーブやローレル(月桂樹)オイルを原料としているため肌に優しく現代でも愛用者が多い。
(注2):ヤジディ教は一神教であり、ゾロアスター教とメソポタミアの伝統儀式が入り混じるほか、キリスト教、ユダヤ教、スーフィー、イスラム教などの影響を受けており、太陽に祈りを捧げる。2014年からISによって拉致され奴隷にされる事件が相次いでいる。
アレッポの石鹸はシリア・アラブ共和国の第二の都市アレッポで生まれました。アレッポは同国ダマスカスと並んで世界でもっとも古くからある都市でその歴史は4000年にも及びます。地中海に向かうシルクロードとの交易地点であり同地域でもっとも大きな経済的農業的中心です。豊富に集まるオリーブや希少なローレル、そして砂漠に自生している植物を利用してアルカリを抽出しアレッポでは1000年ぐらい前から石鹸が作られてきたとされており、15世紀にはオスマン帝国に50トンの石鹸が輸出されたことが記録されています。 文責:アレッポの石鹸
株式会社アレッポの石鹸について |
特定非営利活動法人:日本イラク医療支援ネットワーク(JIM-NET=ジムネット)
イラクでは1990年代の半ばから、イラクでは小児がんの患者が増え始めました。1991年の湾岸戦争や2003年のイラク戦争で使われた劣化ウラン弾の影響ではないかと言われています。2004年、小児がんの子ども達を救うため、医療支援を行っているNGOや関心のある医師たちをつなぐネットワークとしてジムネットが設立されました。ジムネットはイラクのがんの子どもたちの支援の他、シリア難民支援、福島の子どもたちを放射能から守る活動を行っています。
ジムネットでは様々なイベントやキャンペーンを行っています。
●チョコ募金
「チョコ募金」は、2006年から毎年おこなっている冬季限定の募金キャンペーンです。
一口500円の募金をしてくださった方へチョコレートを一缶プレゼントします。募金は、イラクの小児がん医療支援、シリア難民・イラク国内避難民支援、福島の子どもたちを放射能から守る活動に使われます。チョコ募金には、毎年大きなテーマがあります。今年のテーマは「いのちの花Part2 Chocolate for Peace」です。
http://jim-net.org/choco/
●イベント・【チョコ募金スペシャル企画&戦後70年企画最終章】いま、ここにいる私たち
『グレート・ジャーニー』の関野吉晴さん、『ドキュメンタリー写真家』の村田信一さんをお迎えして、トークイベントを開催します。私たちはどのように生きていくべきか、どのような視点で日本と世界と向きあうべきか、私たちの「未来」について沢山のヒントが詰まった場を作ります。
日時:12月26日(土)
12:30開場/13:00~プレイベント/14:00~メイントーク
場所:立教大学池袋キャンパス 太刀川記念館3階ホール(池袋駅西口、徒歩7分)
詳しくはJIM-NETのホームページをご覧ください。
http://jim-net.org/blog/event/2015/11/122670.php
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以前、仕事でミンダナオ島に出張したことがあります。日本にいると、誘拐や空港爆破などの報道ばかりが耳に入るため、かなりビビりながら出かけたのですが、目に入るのは青い海、砂浜、南国の果実、素朴でかわいい子どもたち。恐る恐る訪れた村は、短期で訪問する分には、天国のような場所でした。だけど話を聞けば、何かしらの事情でご家族を失った方が多く、一方的に武力を行使する者に耐えず脅かされる環境にある人たちを前に、非暴力・不服従って何だろう?と考えずにはいられませんでした。
今ある暴力の全てを、非暴力で止めることは困難だと思いますし、強いものを頼る気持ちを否定することもできないのですが、非暴力・不服従の精神で強いものに対峙することが、将来の平和のためには、絶対に必要です。シリアの街の靴屋さんが平和裏に商売をできる環境が整うことを願うと同時に、ISに聴診器で立ち向かうジム・ネットの活動を、私も応援します。
次回は、『アラビアン・ナイト』の書誌学的な内容をご紹介します。合わせて、「株式会社アレッポの石鹸」よりお寄せいただいた、石鹸の製法についてのコラムもご紹介します。本来の中東にはこんな時間が流れているのだろう、と感じられる内容で、平和な状態で現地を訪問してみたい、と、改めて思いました。
【2015年12月19日掲載】