ゴバ文字
ゴバ(哥巴)文字は,中国雲南省西北部に居住する納西(なし)族のトンパ(巫師)が,トンパ(東巴)文字(=ナシ象形文字)より後に作り出した表音文字で,トンパ文字の発展した形と考えられている。その創作年代は史書には記載はなく,明確には分からない。大体 13 世紀頃ではないかと推測されている。現在もなお使用されている。(西田)
文字構成
ナシ語で「弟子の文字」と称され,トンパ文字と同様に宗教活動上使われる文字であるが,1 字形は 1 音節を表し,左から右へと横書きする。筆画は簡単化し,トンパ文字よりもずっと進歩している。約 500 字からなりたつが,その字形は規定がなく,地域による,また,書き手による異形が多い。数個の字を同音に読む一方で,1 字に数種類の意味を表現させるため,その意味解釈は難しく,表音節文字としてまだ十分成熟していない。
ゴバ表音文字表
ゴバ文字の特徴の一つに,字形の整理がなされたことがなく,ナシ語の 1 音節にたいして多種類のゴバ字形が使われる点がある。たとえば,次のように,ナシ語の同一音節に 3 字から 8 字ぐらいの異字形がある。
ナシ象形文字・常用ゴバ文字対照表。
丽江东巴文化学校编(2003)『纳西象形文字』(云南人民出版社)
文書例
迎神経
『迎神経』は,すべてゴバ文字で書かれた東巴経典であるが,経題がナシ象形文字とゴバ文字両方で書かれている。
1 [宝物] 宝物から輝きが出ているさまを著わし,経典の装飾である。 2 [トンパ(巫師)] 頭に冠を戴いて口で経を読むさま。 3 本来「隆起するもの」あるいは「机」を意味し,「…の」の表記に仮借される。 4 [風神を祭る樹],トンパが祭風道場を行うときに使う。 5 [風] 6 [虎] 7 [牛の風] 8 [脚]の象形。 9 [―],陽神の表記に仮借。 10 [身体を起こす] 11 […である] 12 […のもの]
全訳は,「東巴が祭風道場―陽神を起こすものなり」すなわち『迎神経』を指す。最後の 4 字がゴバ文字である。
ゴバ文字経書
図の上の文字は左から右に読む。
むかしむかし人間はジュワルワ神山の頂上からやって来た。鳥類はジャクワ山から飛んできた。水は高い山の頂にできた…。
東巴木牌苑本(哥巴文木牌画)
中国民族古文字研究会
送神経
中国民族古文字研究会
注
- 西田龍雄(2001)「ゴバ文字」『世界文字辞典』(言語学大辞典,別巻,三省堂)
- 西田龍雄(2001)『生きている象形文字』(五月書房)
- 中国民族古文字研究会编(1990)『中国民族古文字图录』(中国社会科学出版社)
[最終更新 2019/04/20]