ダパ文字
ダパ文字(達巴文字)は,中国雲南省納西東部方言地区で作られた文字。この文字の創作には次のような経緯がある。トンパ(東巴)教もダパ教も,チベットのボン教と通じるシャーマニズムを土台に発達した。トンパ教は巫師(トンパ)がたぶん宋代あたりに象形文字(ナシ象形文字)を作り出し,口誦経典の多くを文字に替え,師徒相承の形で代々伝えた。一方,ダパ教の方は固有の文字を作らず,91 部あるといわれる経文(創世記,祭光明神経,祭外夷鬼経,招魂経など)を口誦のまま伝えた。一方,日々の吉凶を予示する少量の占卜経もある。それはダパ教の巫師が作った専用の特別な象形符号 32 種で書かれている。それがダパ文字である。
納西族の東部方言地区は,元以降に封建領主社会に移ったが,宋代はなお母系民族社会を保持していたといわれる。ダパ字形は古い母系社会を反映して,女性の性器などを象る形が多く使われた。性器は子孫を繁栄させる神力をもち,生命の来源と考えられていた。そして,男性性器の象形も出てくる。
ダパ教の世界でも 1 年を 12 ヶ月に分けるが,各月の日数の配分は,1 月は 32 日,2 月は 28 日,3 月は 30 日と我々と異なっている。しかし,各月ともこの 32 字以外の形は使われていない。ダパ文字は,字形の数が限定されている上に,吉凶の段階を指すのみで,この字形は言葉自体と結びついていない。従って,厳密には文字とは呼びにくく,実質的には,文字の前段階に該当するもので組織をなしていない。全体 32 字が数字のように一組をなしている符号であるといいうる。
1 月の占卜
注
- 西田龍雄(2001)「ダパ文字(達巴文字)」『世界文字辞典』(言語学大辞典,別巻,三省堂)
[最終更新 2019/04/20]