女真文字 英 Jurchin/Jurchen spript
明王慎德、四夷咸賓の印 [方于魯 / Public Domain / 出典] |
金国滅亡後も,東北地域に居住した女真人は約 200 年にわたって女真文字を使っていた。女真文字の資料は多くはないが,明代に編纂された女真語と漢語の対訳単語集(雑字)と例文集(来文)からなる『女真館訳語』をはじめ,金代の「大金得勝陀頌碑」(1185),明代の「奴児汗都司永寧寺碑」(1413)などの碑文類と符牌,銅鏡の文字などがある。[西田]
清朝末年になって,この文字は学者の注目をあびたが,現在なお,大字と小字の正体は,種々の見方が提出されてはいるものの,まだ確定されていない。「女真大字」と「女真小字」は、「契丹大・小字」と異なり、文字体系として別々に存在するわけではない。小字は大字を補う目的(一種の送り仮名のように表音的な役割)で作成されたと考えられている。
文字構成
現在知られている女真文字の総数は,変形を含めて約 9 千字ある。外観は漢字に似ているものの,そのほとんどが単体字であり,偏,旁,冠などの要素には分解できない,毎字 1 画から 10 画まで成立するが,象形字,指事字はもちろん,形声字,会意字と考えられる字形も認められない。一口でいえは,相互の関連性の希薄な,ばらばらの字形の集合である。
女真文字の中で,とくに表意字の中に漢字の楷書体を模倣したことが明瞭な字形が認められる。
ごく一部にすぎないが,字形の上で漢字との相互関連の存在を思わせるものがある。女真字 bun 〈本(もと)〉を基本にして女真字 bitehe 〈書物〉が作られるとか,文字 loho 〈刀〉と文字 uju 〈頭〉が字形の上で類似しているのは,漢語の本と書の意味関係,刀と頭の発音の近似がからんでいるように見える。
女真文字には,春夏秋冬や東西南北のように,一組として見た場合,漢字の字形と近似を印象付けられるものがある。これらは,もともと 1 字であったが,のちに春夏秋冬には erin(季節)が,東西南北には -ši あるいは -ti が加えられたため,漢字との類似点が薄らいで見えるようになった。
1 字形でまとまった意味を表現する表意字形は,1 字形が 1 音節を書き表すという規則はなく,2 音節,3 音節,最多は 4 音節まである。
女真数字
女真数字は若干の特異な字形をもつけれども,すべて漢字を基に変形させたものと考えられる。数詞には,11,12,13 から 14,19 までと,20,30,40 と 90 までの各々を 1 字形で書き表す特徴がある。これはアルタイ語数詞の特質でもあり,各形式に 1 つの意字を作って当てるのは表意文字の性格を利用した特徴で,契丹大字も同様であった。
契丹大字と女真文字
女真文字の字形の来源は,契丹大字との関連が追求されるが,初歩的な段階にとどまっていて,今後の契丹大字資料の解読の成果に多くを期待しなければならない。両文字の対照関係を次に示す。
テキスト
女真文字銀牌
中國金代女真文銀牌 [Unknown / Public Domain / 出典] |
女真文字フォント
女真文字フォント Jurchen の収録位置は U+4E00..U+560F (CJK Unified Ideographs)である。次にその一部をあげる。
注
- 西田龍雄 (2001)「女真文字」河野六郎 [ほか] 編著『言語学大辞典 別巻 (世界文字辞典)』三省堂.
- 清瀬義三郎則府 (1997)「女真文字―ツングース狩猟民族の「擬漢字」文字」『月刊しにか』 (8{6}) p. 40.
関連リンク・参考文献
- 女真文字 | Jurchen language
- Omniglot: Jurchen script
- 愛新覚羅烏拉煕春 (2009)『明代の女真人』京都大学学術出版会.
- ―,吉本道雅 (2011)『韓半島から眺めた契丹・女真』京都大学学術出版会.
- 中西コレクションデータベース -世界の文字資料- (国立民族学博物館)
- 西田達郎 (1982)『アジアの未解読文字』大修館書店.