南ピケーノ文字 伊 alfabeto sudpiceno,独 südpikenisches Alphabet,英 South-picene alphabet
古代イタリア中東部,アドリア海に面する地域にピ(ー)ケーヌム(Picenum)があり,首都はアースクルム・ピケーヌム(Asculum Picenum)で,北部に港市アンコーナ(Ancona)があった。このピケーヌムを中心とし,北はウンブリア(Umbria)のアドリア海沿岸から,南はピケーヌムの南辺を越え,アーテルヌス川(Aternus)の南方に及ぶ地域で,一連の碑文が発見されている。しかし,中部のマチェラータ(Macerata)あたりを境とし,それ以北と以南とでは,碑文の文字も年代も相違があり,通常,北と南に分けて取り扱う。→ 蛭沼
文字構成
南ピケーノ語の文字は,エトルリア文字に由来しているが,ギリシア文字の影響を受けているものもある。文字数は 22 文字(とその別形,他に不明の 1 字あり)あるが,それらすべての音価は長い間確認さず,碑文の正確な意味を読み出すこともできない現状である。→ 世界の文字研究会
南ピケーノ語テキスト
サンプルテキスト
碑文の文字の書き方は,並列行の場合はすべて第 1 行は「左から右へ(dextrorsum)」,第2行は「右から左(sinistrorsum)」と,いわゆる「犂耕式」,すなわち,方向が交互に逆になるのみならず,文字の姿勢も倒置になる,いわゆるserpentine「蛇状犂耕式」である。これは,これらの文字の古さを示し,前 6 世紀ないし前 5 世紀初期のものと推定される。
ロロ・ピチェーノの石柱碑文
1943 年,マチェラータのロロ・ピチェーノ(Loro Piceno)出土。砂岩の碑柱,106 × 36 × 10 cm。碑文は石碑の底部より始まり,左から右へ,犂耕式。
ファレローネ石碑
砂岩の石碑,アスコリ・ピチェーノのファレローネ(Falerone)出土,45 × 30 × 26/15 cm。
関連リンク
注
- 蛭沼寿雄(2001)「南ピケーノ文字」『世界文字辞典』(言語学大辞典,別巻,三省堂)
- 世界の文字研究会 編(1993)『世界の文字の図典』(吉川弘文館)