世界の文字
イベリア文字 英 Iberian script,西 escritura ibérica
紀元前 5 世紀から紀元 1 世紀半ば頃にかけて,イベリア半島の南部から東部を経てフランス南東部に至る地中海沿岸に存在した刻文文字を,「イベリア文字」と総称する。ローマ帝政期に死語となった非印欧語系のイベリア語の表記に主として用いられた。表音文字で,文字の体系や読み方は解明されているが,意味解釈の上ではほとんど未解読の状態である。イベリア文字は,印欧語系のケルトイベリア語の碑文にも使用された例がある一方で,イオニア系ギリシア文字で書かれたイベリア語碑文もある。イベリア文字の資料は,鉛版,石碑,陶器,貨幣などの刻文である。[1]
この文字の起源は明らかではないが,半島に最初に存在した音節文字にフェニキア人が植民地を築いた時代(紀元前 7 世紀頃)にもたらされたフェニキア文字,それに続いて植民したギリシア人の文字などの単音文字が結合して成立したと考えられている。なぜイベリアに音節文字が存在したのかは謎である。音節文字という共通点からクレタ聖刻文字,キュプロス文字との関係が注目され,この音節文字は東地中海に由来するものではないかという説もある一方で,イベリア土着のものと推定する説もある。[1]
イベリア半島の言語分布
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古スペイン文字体系分布図 [I, Tautintanes / CC BY-SA 3.0 / 出典] |
文字体系の分類・資料
イベリアの古代碑文は,その文字と言語の特徴から,最初のグループは,ポルトガル南端とその東側に隣接するスペインの一部,次は,スペイン南部のアンダルシーア地方を中心とする地域,3 番目は歴史上のイベリア人の居住地域と対応する地域の 3 種類に分類される。[1]
南部イベリア文字
普通,イベリア文字と呼ばれるものは以下の 2 グループを指す。一つは南部イベリア文字 (escritura sudibérica) と呼ばれるもので,多数の変種がある。スペイン南部のアンダルシーア地方を中心に発見され,主な資料は貨幣と鉛版の刻文である。代表的な資料としては,ガドル (Gador) およびモヘンテ (Mogente) の鉛版がある。この文字で書かれている言語は,東部と同じイベリア語であると考えられる。[1]
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Rodríguez Ramos によるイベリア文字音価表 (2000) [I, Tautintanes / CC BY-SA 3.0 / 出典] |
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ポルトガル南部で発見されたタルテッソス語碑文 [Papix /Public Domain / 出典] |
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モヘンテの鉛版 [I, Tautintanes / CC BY-SA 3.0 / 出典] |
東部イベリア文字
もう一方のグループは,東部イベリア文字 (escritura ibérica del este) と呼ばれ,その分布は,歴史上のイベリア人の居住地域と対応する。スペイン東部のレバンナ地方,カタルーニャ,エプロ川中流域,さらにはフランス南部にまで広がる。資料は最も豊富で,墓石,鉛版,貨幣などの刻文である。。[2]
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有声音と無声音を区別する北東部イベリア文字表記 [I, Tautintanes / CC BY-SA 3.0 / 出典] |
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有声音と無声音を区別しない北東部イベリア文字表記 [I, Tautintanes / CC BY-SA 3.0 / 出典] |
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Ullastret で発見されt鉛版に記された北東イベリア文字 [Papix / CC BY 2.5 / 出典] |
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南東イベリア文字表 [I, Tautintanes / CC BY-SA 3.0 / 出典] |
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La Bastida de les Alcusses で発見された南東イベリア文字が記された鉛版 [I, Tautintanes / CC BY-SA 3.0 / 出典] |
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ギリシア語・イベリア語アルファベット [I, Tautintanes / CC BY-SA 3.0 / 出典] |
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スペイン・バレンシア州のアルコイ (Alcoi) で発見されたギリシア語・イベリア語を記した鉛版 [I, Tautintanes / CC BY-SA 3.0 / 出典] |
注
- ^
a
b
c
d 寺崎英樹 (2001)「イベリア文字」河野六郎, 千野栄一, 西田龍雄 編著『言語学大辞典 別巻 (世界文字辞典)』三省堂, p. 92.
- ^ 寺崎 p. 94.
関連リンク
[最終更新 2021/11/09]