シリア文字 英 Syrian script

(古)シリア語という名称は,広義ではアラム語をさすこともあり,その場合,狭義のシリア語は,エデッサ語とかメソポタミア語と呼ばれる。中期シリア語は旧新約聖書の翻訳に用いられ,シリア文字による正書法を新たに確立し,東アラム語を話すキリスト教徒の文字共通語となった。東方のペルシア領内のシリア人と西方のローマ支配下のシリア人との間に,最初からあったと考えられる方言差は,5 世紀末にシリア教会がキリスト教論争の結果,エデッサを中心とする東のネストリウス派とニシビスを本拠とする西のヤコブ派とに分裂したのち,次第に顕在化した。13 世紀のモンゴルの来襲によるイスラム文明自体の衰退に伴い,シリア語の使用は山間の僻地に限られることになって,現代に至る。現在は主にキリスト教会の典礼用語などとして用いられる。 [1]
シリア語を表記する文字 (文字体系:アブジャド) には 3 種類ある。最古の書体であるエストランゲロ体 (シリア語 esṭrangelā/ō),のちにこれから変化し,西方シリア人 (ヤコブ派キリスト教徒) に用いられた西方書体またはセルトー体 (シリア語 serṭā/ō),および,東方のネストリウス派キリスト教徒の間で変容した東方書体またはネストリウス体 (シリア語 nestūryānā/ō) の 3 種である。最も多く用いられるのはセルトー体で,エストランゲロ体がそれに次ぐ。 [2]
シリア文字と発音
エストランゲロ文字

セルトー文字

ネストリウス文字

分かち書き 右から左へ書き,ほぼ単語ごとに分かち書きするが,一字からなる単語は次の単語との間を空けない。また,行末においても単語を途中で切らない。
母音の表記 母音文字はないが,',y,w が一定の条件下で母音を表すという点は,後期の北西セム系文字の場合と同じである。
付加符号 1)識別点:同じ綴りで発音を異にする語を,母音の「強・弱」,また,「硬音・軟音」を点を上に打つか下に打つかで区別する。2)母音符号:母音符号は,まず東方シリア語で 1~2 個の点の組み合わせとして作られ,西方シリア語では 700 年頃にギリシア文字を上に小さく書く方法が考案された。3)現代アラム語:シリア文字は,現代アラム語においても用いられる。東方方言ではネストリウス体が,シリア山地の西方方言ではセルトー体が使われており,エストランゲロ体も場合に応じて用いられる。
シリア語テキスト
サンプルテキスト
シリア語聖書(松田伊作 2001)

アッシリア語テキスト(ネストリウス文字) [3]

母音符号つきテキスト

ローマ字翻字

音声記号転写

訳
ライオンと狐
一頭のライオンが年老いてもはや獲物を捕ることができず飢えていた。そこで一計をめぐらした。ライオンは洞窟に潜り込み,仮病を装って横になっていた。動物たちが様子を見にやってきた。そして洞窟の中へ入っていくと,ライオンはそれらを食い殺した。あるとき,狐がライオンを訪ねてきたが,洞窟には入らず入り口からライオンの容態を尋ねた。ライオンは「親愛なる兄弟,どうか中へ入ってきてもらえないか。なぜ,ここまで来てくれないのか?」と言った。狐は答えた ―「私が君のところまで行かないのはね,入っていた足跡はたくさんあるのに,出てきた足跡が全く見えないからだよ。」
テキスト入力
ユニコード
シリア文字のユニコードでの収録位置は U+0700..U+074F である。表に現れない語頭・語中・語末形など語中の位置に依存する字形はユニコードフォント自体が持つ文字情報により自動で選択される。例はセルトー文字。

シリア文字表示テスト
下表右下セルにシリア文字が正しく表示されない場合は,ユニコード対応フォント [4] をインストールする。 (表示は使用するフォントにより左側の書体と異なる場合がある。)
正しい表示 | お使いのコンピュータでは |
![]() | ܠܫܵܢܵܐ ܣܘܪܝܝܐ |
シリア文字入力方法
シリア語用スクリーンキーボードをデスクトップに表示して,画像の配列を参照しながら,キーボードから文章を入力する。付加記号などは,シフトキーを押した状態で入力する。 【参考】 多言語環境の設定
関連リンク
Syriac alphabet | シリア文字
- 中西コレクション(国立民族学博物館)シリア文字
- Omniglot Syriac
- Ethnologue: Languages of the World
- Convent of Noster: The Lord's Prayer(サイト停止中)
- sverigeradio シリア語新聞・放送
- YouTube: Syriac School - Learn Syriac languge online
注
- ^ 松田伊作(1988)「アラム語」『世界言語編(上)』(言語学大辞典,第1巻,三省堂)
- ^ 松田伊作 (2001) 「シリア文字」『世界文字辞典』 (言語学大辞典,別巻,三省堂)
- ^ Tsereteli, Konstantin (1978), Grammatik der modernen assyrischen Sprache (Neuostaramäisch). (Leipzig, VEB Verlag Enzyklopädie)
- ^ シリア文字対応フォント: Code2000 (ネストリウス文字)| TITUS Cyberbit Basic (エストランゲロ文字)