モーディー文字 Moḑī lipi
西部インドのマラーティー語の速記用文字として,13 世紀半ばから 20 世紀初頭まで用いられた一種の崩し文字。「モーディー」は,マラーティー語動詞 moḍ-ṇe 「崩す,こわす」に由来するといわれる[1]。
いつ,誰の手によってこの字体が考案されたかについては,今日最も一般的に受け入れられているのは,13 世紀半ばに,ヤーダヴァ朝の宰相ヘーマードリパント(Hemādripant)によるとするものである。それによれば,王国政府の公文書(ダフタル)の作成に当たって,デーヴァナーガリー文字の場合は1画ごとに筆をあげねばならず,時間もかかるため,彼はペルシア語の速記用文字とされる「シカスター(Shikastā)}からヒントを得て,ナーガリー文字を簡易化し,かつ一筆で続けて早く書ける崩し字体として,このモーディー文字を考案したという[1]。
この字体がより広く用いられるようになるのは 17 世紀の第四半期から始まるマラーター王国,とくに 18 世紀以降のベーシュワー期である。王国の拡大とともにこの文字はインド各地に広がり,とくに南インドのマドラスやマイソールでは,19 世紀の公式文書の中にもこの文字が見出されるという。しかし,20 世紀初頭に,ボンベイ州政府が司法局の官吏から出された「モーディー文字は理解しにくい」との不満を受けて,裁判所関係の文書からこの文字を排除する措置をとって以降,この文字の使用は次第に消滅していった。
文字構成
モーディー文字の構成,またその性格,機能は,崩し文字になっているという以外は,基本的にマラーティー語のデーヴァナーガリー文字と同一といえる。すなわち,デーヴァナーガリー文字の場合と同様,子音字に母音字符号を付するのであるが,デーヴァナーガリー文字では元の子音字自体は変化しないのに対し,続き書きを目的とするモーディー文字では子音字に微妙な変化が見られることが多い。[2]
母音字
子音字
子音と母音の結合
数字
モーディー文字テキスト
サンプルテキスト
A verse from the Dnyaneshwari in the Mōḍī script [Own work / Public Domain / 出典] |
テキスト入力
文字コード
本項で用いた MarathiCursive フォントは,ユニコードのデーヴァナーガリー文字領域 U+0900..U+097F にモーディー文字が割り当てられている。なお,次期ユニコードの拡張に向けて,独自のモーディー文字領域案 (3.4 MB)が提出されている。
入力方法
スクリーン・キーボードの設定は,ヒンディー語用キーボードを選択し,フォントに MarathiCursive を指定する。タスクバーにはヒンディー語を表す「HI」が表示される。【参考】 多言語環境の設定注
関連リンク・参考文献
- Modi alphabet
- Omniglot: Modi alphabet