ビルマ文字 英 Burumese script,ビルマ myanma sa (mranmaa caa)
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ミャンマー(旧ビルマ)で話されるビルマ語(話者数約 4,200 万人,シナ・チベット語族チベット・ビルマ語派)を表記する文字。ビルマ文字は,モン文字の文字体系をそのまま借用しビルマ語の表記に適合するよう一部改変したものである。歴史的観点からはモン=ビルマ文字と総称してよい。ビルマ文字はモン文字に起源をもつが,ほかにも,時期的にはずっと新しいけれども,モン文字に由来するものに,東部ポー・カレン(プォーカレン)文字(仏教ポー・カレン文字)がある。また,ビルマ文字から生まれたものにシャン文字,パオ文字,スゴー・カレン文字,ポー・カレン(プォー・カレン)文字(キリスト教ポー・カレン文字)などがある。そのいずれものおおもとになったモン文字は,インドのブラーフミー系の文字の系統をひくテルグ・カンナダ系の古文字であるパッラヴァ文字(Pallava script)に由来するという。現代のモン文字,ビルマ文字は丸みを帯びた字形が中心となっているが,古モン文字(Old Mon script),古ビルマ文字(Old Burmese script,ミャゼディ文字―通称「ミャゼディ碑文」(1112 年)のビルマ語面に記された文字―で代表される)は角ばった方形の字形をもっていた。以下,藪(2001)による。
文字組織
ビルマ文字は,インド系文字の基本的性格に従い,中核となる字母に様々な表音機能を持つ符号を上下左右に付加し,全体として音節を表す。ビルマ語の基本単語は 1 音節からなっており,1 音節はおおむね,/C1(C2)V(C3)/ という構造に声調がかぶさる形で出来上がっている。/C1/ は音節の最初に出てくる子音を表す文字で「頭子音字」,/C2/ は頭子音の後ろに出てくる子音を表す文字で「介子音符合」と呼ぶ。/V/ は母音(二重母音も含む),/C3/ は音節の最後に出てくる子音を表す「尾子音字」と呼ぶ。
cămâ=dô (私たち) 構成要素 | |||||||||
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|||||||||
က | ျ | ွ | န | ် | မ | တ | |||
U+1000 | U+103B | U+103E | U+1014 | U+103A | U+1019 | U+1010 | U+102D | U+102F | U+1037 |
KA | YA | WA | NA | ASAT | MA | TA | I | U | aukmyit |
myǎmà (ミャンマー) 構成要素 | |||||
![]() |
|||||
မ | ြ | န | ် | မ | |
U+1019 | U+103C | U+1014 | U+103A | U+1019 | U+102C |
MA | RA | NA | ASAT | MA | AA |
字母(頭子音字)
下表は,インド系文字の字母表の習慣に従って,インド音韻学の伝統により調音音声学的に整理した配列になっている。そのうち * を付したものは,パーリ語からの借用語の表記に限って用いられる,特別な文字といってよい。
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介子音符合
頭子音字に付加される介子音符合は 4 種ある。次にそれらの結語例と,4 つの介子音符合の共起する例を挙げる。
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母音符合・声調符合
頭子音字単独(つまり,母音符合ゼロ)なら,母音 /-á/ を付して読むことになっている。これはインド系文字の大部分に共通する特徴である。母音符合は,頭子音字の上下左右に付す。
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声調符合
母音符合に 3 種の声調符合が付いて母音終わりの音節を表記する。声調符合は次の通りである。
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声調符合の分布
これら 3 つの声調は,母音の長短と一定の相関関係をもつ。つまり,緊声は母音が常に短く,高声と低声は母音が常に長い。しかし,声調符合は,当該の声調をもつ母音終わりの音節に対して一律に用いられるわけではない。
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独立母音字
単独で母音を表記する文字を独立母音字と呼ぶ。パーリ語・サンスクリット語起源の語で母音始まりの音節は,独立母音字で書かれる。
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母音符合と尾子音字の結合
尾子音字は母音符合・声調符合と結びついて,韻母 /-VC/ を表記するのに用いられる。尾子音字は,頭子音字に「アタッ(ʼa-sat)」(殺すものの意)と呼ばれる「殺母音符合」(内在母音 /-á/ を消すという機能をもつ)を付して得られる。
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鼻母音韻母と声調符合の結合
鼻母音と声調符合の結合は次のようになる。
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重ね字
重ね字は,パーリ語の音節結合を表記するとき,尾子音字と次の音節の頭子音字を重ねて書く文字である。
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数字
ビルマ文の中では,ビルマ数字が用いられる。数の表記における数字の並べ方は,アラビア数字と変わらない。
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その他の記号
文語文体の文にしか用いられない 4 つの単語(本来いずれも付属語)を書き記すときに使う特別の字があり,これらはもとあった綴り字を縮約してできた略字である。句読点は,2 種類ある。
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ビルマ文字文例
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世界人権宣言第一条 [// Universal Declaration of Human Rights - Burmese/Myanmar ![]() |
ビルマ文字入出力
ユニコード
ビルマ文字のユニコードでの収録位置は U+1000..U+109F である。
Padauk などのユニコードフォントのコード表
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非ユニコードフォントであるが,一定の利用者をもつ Zawgyi-Oneのコード表
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ビルマ語キーボード
Ekaya Ekaya Input Method Ekaya-0.1.9*** (32 bit 用,または,64 bit 用) をインストールすると,英語キーボートの下にビルマ語用仮想キーボードが設定される。その際,数種類のフォント(Padauk, Padauk Book, ThanLwin, Myanmar3 など)も同時にインストールされる。仮想キーボードおよび入力方法については 多言語環境の設定 を参照。
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ビルマ語入力
下記 /myauʔ/ 「北」では,/m-/ を表す基本字母を囲む格好で介子音 /-y-/ を表す符合が付き,さらにそれを挟み込む形で,/-auʔ/ の発音を表す字母・符合が付く。
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注
- 藪司郎(2001)「ビルマ文字」河野六郎, 千野栄一, 西田龍雄 編著『言語学大辞典 別巻 (世界文字辞典)』三省堂, pp. 812-822.
- 藪司郎(2001)「ミャゼディ文字」河野六郎, 千野栄一, 西田龍雄 編著『言語学大辞典 別巻 (世界文字辞典)』三省堂, pp. 1001-1005.
Myazedi Inscription in Mon language -- Gubyaukgyi Temple, Bagan, Myanmar [Hybernator / Public Domain/ 出典] |
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関連リンク・参考文献
ビルマ文字
- 中西コレクション(国立民族学博物館)ビルマ文字
- 東京外国語大学言語モジュール ビルマ語
- Omniglot Burmese
- ScriptSource Myanmar (Burmese}
- SEAsite Burmese language
- SIL Padauk Font