チュー・クオックグー(字国語) ベトナム chữ Quõc ngữ,英 the modern Vietnamese script
ベトナムは東南アジア各国の中で唯一,中国文化圏に属する国である。20 世紀初頭までは,朝鮮・韓国や日本とともに漢字文化圏の一角を担っていた。現在は漢字を完全に廃絶し,ラテン文字を国字としている。これをベトナムでは「字国語 チュー・クオックグー」または「字普通 チュー・フォートン」と呼ぶ。チュー・クオックグーの字形の基礎は,イエズス会宣教師アレクサンドル・ドゥ・ロード Alexandre de Rhodes (1591~1660) がローマで 1651 年に出版した「ベトナム語・ラテン語・ポルトガル語辞典」があり,フランス植民地期にこれに基ずく正書法ができた。
アレクサンドル・ドゥ・ロードが作成した、ベトナム語のローマ字表記の辞書。チュ・クオック・グーの原型となった。[Alexandre de Rhodes / Public Domain / 出典 |
民族語であるベトナム語は,長い間,単なる「話し言葉」として卑しめられ,民族の誇りは,正式な文字である漢字=「字儒 チュー・ニョー」(学者の文字)に対する俗字=「字喃 チュー・ノム」(話し言葉の文字)にかろうじて繋ぎとめられていた。しかし,この俗字において,声調をも含めて,無意識的になされたベトナム語の音素的分析は,現代ローマ字正書法の出発点である教会ローマ字にも反映され,表語文字の世界をスムーズに表音文字の世界へと転換させた。 [1]
文字と声調
単語は,母音を 1 つだけ含む音のまとまり(単音節)からなる。すなわち,CV あるいは CVC という構造をしている。さらに,もう 1 つの要素である声調が音節にかぶさることになる。CV;CVC という単音節の構造において頭子音の C を声母,残りの V あるいは VC の部分を韻母と呼ぶ。声母はただ 1 つの音素からなるが,韻母には,介母音,主母音,末子音の音素が含まれる。
アルファベット
[k] | [ŋ] | [ɣ] | |
i, ê, e, ia/iê 以外のとき | C c | G g | NG ng |
i, ê, e, ia/iê のとき | K k | GH gh | NGH ngh |
声調
ベトナム語の声調は平声を除き,各単語の母音の上もしくは下に符合をつけることによって示される。声調の順序に関しては,初めに平声のカイン・ガン,最後の 6 番目のタイン・ナンがくる以外はとくに順序が決まっているわけではない。 [2]
1: | タイン・ガン 普通の声の高さよりもやや高めに平板に発声する。 |
2: | タイン・フイン やや低い音で始まり,徐々に平常の音域における最も低い音階までさがる。 |
3: | タイン・ホイ: やや低い音で始まり,ゆっくり下降してから跳ね上がって元の高さよりもやや高い音階まで上がる。 |
4: | タイン・ガー: 普通の声の高さよりもやや高めに始まり,急に下降し,いったん声門が閉じ声が途切れた後再び上昇し,最も高い音階で緊張した声を解く。 |
5: | タイン・サック やや高い音で始まり,急に上昇する。 |
6: | タイン・ナン やや低い音で始まり,急に下降して,声門が閉じ,声が途切れる。 |
テキスト
ベトナム語文例
Tất cả mọi người sinh ra đều được tự do và bình đẳng về nhân phẩm và quyền. Mọi con người đều được tạo hoá ban cho lý trí và lương tâm và cần phải đối xử với nhau trong tình bằng hữu. |
世界人権宣言第一条 [ 7X\zQQJ{QWRQWKJL±LYQKyQTX\QF´D/LzQ+²S4X¬F] |
テキスト入出力
ベトナム語用キーボードを設定すると,タスクバーにはベトナム語を表す「VI」が表示される。声調記号を含む個々のキー配置は,ベトナム語入力方法 に説明がある。仮想キーボードおよび入力方法については 多言語環境の設定 を参照。
注
- ^ 冨田健次 (2001)「チュー・クオックグー(字国語)」河野六郎, 千野栄一, 西田龍雄 編著『言語学大辞典 別巻 (世界文字辞典)』三省堂, pp. 609-611.
- ^ 川口健一 (1998)「ベトナム語」『世界の言語ガイドブック 2 アジア・アフリカ地域』三省堂, p. 291.
関連リンク・参考文献
- クオック・グー
- Omniglot Vietnamese (tiếng việt / 㗂越)
- ScriptSource Vietnamese
- 今井昭夫 (2001)「ベトナムにおける漢字と文字ナショナリズム―漢字・漢文からローマ字表記のベトナム語へ」ことばと社会編集委員会 編 『ことばと社会 5号』三元社.
- ― (2012)「ベトナム語と[クオックグー〕」今井昭夫, 岩井美佐紀 編著『現代ベトナムを知るための60章』第 2 版, 明石書店.
- 岩月純一 (2005)「近代ベトナムにおける〔漢字〕の問題」村田雄二郎, C.ラマール 編『漢字圏の近代』東京大学出版会.