八百文字 英 Papai script
西暦 1296 年に,現在の中国雲南省南部からタイ国北部にかけた地域に,タイ族の国家ランナー・タイ国(Lannā Tai,〈百万稲田のタイ国〉の意)が建国された。その国語ランナー・タイ語を表記するために使われた文字が,八百(はっぴゃく)文字である。『明史列伝』によると,その王国の長に 800 人の妻があり,各々一寨を領有したところから,中国では「八百媳婦国」と呼ばれていたため,その言語を八百語と呼び,その文字を八百文字と名づけている。八百媳婦国はのちのチェンマイ王国の前身である。八百語は現在のタイ語チェンマイ方言の基盤となった言語で,タイ語祖語形を構築する上でも重要な形態を保持する言語の一つである。(西田)
文字構成
1=子音文字,2 =母音文字, 3=末尾音字,4=声調符号 |
子音字母の字形と音価
単純子音文字(H は高い声調,L は低声調を示す。)
結合子音字(H は高い声調,L は低声調を示す。)
母音字母の字形と音価
八百語母音の表記は,音節末尾に声門閉鎖音を伴う形(Vˀ)のほか,短母音(V)と長母音(VV)の対立を基本的に書き分けている。
八百文字例
下図は,明代 16 世紀の初めに,中国政府の交流文書翻訳処であった四夷館で編纂された『八百館訳語』(左)雑字(単語集)と(右)来文(文例集)である。これらは,当時の八百語を相当忠実に伝えているようで,他の言語資料には見出せないタイ語形を少なからず記録している点,価値がおおきい。
『八百館訳語』(雑学,通用門)
『八百館訳語』(来文)
注
- 西田龍雄(2001)「八百文字」『世界文字辞典』(言語学大辞典,別巻,三省堂)
[最終更新 2019/03/20]