水文字 英 Sui script
水族は,中国の貴州省黔(キン)南布依(ブイ)族苗(ミャオ)族自治州の三都水族自治県を中心に,近隣諸州と広西壮族自治区の西北部にわたって居住する民族である。水族の巫師が使う水文字創作の功績は,水族の英雄であり民族の守護神として崇められる陸鐸公という人物に擬せられるが,真偽のほどは分からない。
水族は古来万物有霊を信じ,自然崇拝の原始宗教を信仰する民族で,出行,喪葬,婚姻,農業をはじめ,すべての行動は巫師の占卜による吉凶によって行っている。巫師がその占卜と吉凶の記録に使う文字が水字であり,記録し伝承された書物は水書と呼ばれる。また,この文字自体を水書と呼ぶこともある。水書には,普通水書=白書と秘伝の水書=黒書の2種類がある。
白書は物事の吉凶を予測する書で,行動を起こす日時などの善悪を判断する根拠を提供する。これは一般民衆も所持していて,数多く伝わっている。それに対して黒書の方は,鬼(精霊)に対処する方術を書いたもので,放鬼・収鬼・拒鬼などの時期・方位・手段などを伝え,巫師のみが秘蔵し,伝わる書物の数も少ない。 [1]
文字構成
水文字は,漢字変形と象形字形からなりたつが,独自の文字組織を考案したものではない。漢字と同じく上から下への縦書きで,右から左へ行を移す。刊本はなくすべて写本で,厚い白皮紙に毛筆で書かれる。古くは竹筆が使われ,筆先を火に焼いて焼け残りを墨として書いた。単体字は全体で約 400 字から 500 字あるといわれるが,字形の標準化もなく各地方に異体字があるから,それらを合わせるともっと多数になる。
以下の表意字は,『水書』 [2] の「水文字総表」に掲載されている水文字である。 水語の声調は次の8種類である。1. [24], 2. [31], 3. [33], 4. [42], 5. [35], 6. [55], 7. [55](短母音),[35](長母音), 8 [43]。
十干
十二支
五行
四季
数詞
吉凶兆象表
テキスト
サンプルテキスト
出典:西田(2001)出典:王品魁(1994)
関連リンク・参考文献
- 水書 | 水书
- スイ族の水書
- 張均如(1980)『水語簡志』(民族出版社,北京)
- 西田龍雄(2002)「水文字暦の解読」『アジア古代文字の解読』(中公文庫 B7 20)
- 峰岸真琴(1977)「水文字―水書先生が用いた特別な文字」『月刊しにか』(8(6),大修館書店)
注
- ^ 西田龍雄(2001)「水文字」『世界文字辞典』(言語学大辞典,別巻,三省堂)
- ^王品魁译注;贵州省民委民族古籍整理办公室, 贵州省黔南州民委, 三都水族自治县民委编(1994)『水書』(正七卷壬辰卷,贵州民族出版社)