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【地球ことば村・世界言語博物館】

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世界の文字

ギリシア文字 英 Greek alphabet


ギリシア文字は,古代ギリシアで確立されて現代ギリシアに至るまでおよそ 3 千年近い歴史をもち,ラテン文字その他おおくのアルファベット系文字の基盤となった文字体系である。

アルファベット(ὁ ἀλφάβητος,または,τὸ ἀλφάβητον)という名称は,ギリシア文字の最初の 2 文字の呼び名に由来し,前 3 世紀頃から文献に現れ始める。しかし,古典期のギリシアでは,この文字はまた「フェニキア文字」と呼ばれることもあった。このような呼び方が示すように,ギリシア・アルファベットはギリシア人の完全な独創になるものではなく,前 1 千年紀の初め頃から地中海世界に進出した北西セム民族の有力な一派であるファニキア人からその文字をギリシア人が借用し,ギリシア語に適応させるために,若干の,しかし重大な改変を加えてでき上がったものである [1]

文字構成

ギリシア文字表

文字は古代以来のギリシア文字がそのまま使われているが,その音価は 2 千年以上にわたるこの言語の歴史を反映して様々な変遷をたどっている。次表では,古典ギリシア語の標準とされる紀元前 5 ~ 前 4 世紀のアッティカ方言および現代ギリシア語の 2 種類を示す [1]

数字

ギリシア人は,アルファベット式と頭音方式という二つの数字体系を使用した。頭音方式(アッティカ式)は,頭文字の音による表記は,ギリシア語の 5 (pente Γ,10 (deka Δ,100 (hekaton Η)及び 1,000 (khilioi Χ)に当たる語の頭文字を単独または組合せて表記した。50 を表すには pi の内側に小さい delta を入れ,500 にはΓとΗを組み合わせて使用した [2]

アルファベット方式(イオニア式)は 1 から 9 まで異なる文字を用意し、各桁においてもこれと同じ方法で異なる文字を当てはめる。なお,数字であることを示すためアポストロフィーを末尾に付け,1,000 以上数字の場合は,行の下部で数字の前に同様の符号をつけて表記する。

文字の変遷

セム文字をギリシア語へ適用するために,セム語の半母音及び喉音文字をギリシア語表記にとって不可欠な 5 つの母音文字に変え,有気音を表すために Θ を用い,wāw から分化した母音文字 ϒ を文字表の最後に付け加え,少なくともその外観においてもとのセム文字とほとんど変わらない文字体系が,ギリシア最古期の「原始アルファベット」と呼ばれるものである。古い時期のクレタ,テラ,メロスの諸島で行われたアルファベットがこれに属す [3]

つぎに,ギリシア最古のアルファベット字形とギリシア各地で発達した初期の主要な文字形態を示す。西方ギリシア文字(Western Greek alphabet)とは,紀元前 8 世紀から紀元前 5 世紀頃の初期ギリシア文字群の内,エウボイア島(ユービア島)周辺からペロポネソス半島,そしてイタリア半島にかけて分布した,西方のギリシア文字の総称。後に東方の字形が標準になったため,区別してこう呼ばれる [4]

ギリシア文字最古の銘文

ディピュロン(Dipylonkanne)の壷の銘文(前 8 世紀,アッティカ)

下図は,壷に記されたギリシア文字最古の銘文で,右から左向きに書かれる。ヘクサメトロンという叙事詩の韻律で下記のように読める [5]

ディピュロンの壷の銘文 [Durutomo / CC BY-SA 4.0 / 出典]

記念碑体

紀元前 4 世紀以前の古典期のギリシアから残された文字記録は,そのほとんどが石に刻まれた碑文で,書物に類するものは全く伝わっていない。碑文の文字は一般に「記念碑体 Monumental style」または「石文体 Lapidary style」と呼ばれ,その形態はかなり均質で地域や時代による変異は少ない。平らな碑面にあらかじめ区画された横列に沿って鑿で刻まれるために,大きさも字画も斉一で,方形に近い均整のとれた字形を示す。後の「頭文字または頭字体 Capital letters」はこれを手本としたものである [6]

古典期のギリシア語碑文 [Zde / CC BY-SA 4.0 / 出典]

パピルス書物体

紀元前 3 世紀以降,パピルスに書かれたギリシア語の様々な形の記録が現れた。羊皮紙がパピルスに取って代わる紀元後 4 世紀頃まで約 1 千年に及んで使われ続けた [7]

エジプト中部のオクシュリュンコスで発見された『ユークリッド原論』の写本断片。図は『原論』第2巻の命題5に添えられたもの。紀元100年頃。 [Euclid / Public Domain / 出典]

アンシャル体

8 世紀以前の古い書体は通称で「アンシャル体 uncial」と呼ばれる。書写本で用いられる「書物体」と日常と公的ならび私的な文章で用いられる「文書体」という 2 つの書体に区別される。前者は職業的な書記によって書かれ,整然とした字形である。後者は実用性と効率的な早書きが優先され,連続書きとなり,略字や合字が多用される。 [7]

Codex Vaticanus: Luke および John の冒頭 [Άγνωστος / Public Domain / 出典]
[第 3 カラム上部拡大

聖書アンシャル体(後 4 世紀)

4世紀から5世紀頃にかけて,縦の字幅を太く,横の字幅を細く対照させ,細い字画の終端に太めのくくりを強調したやや装飾的な書体が現われ,これは主に聖書の羊皮書写本で用いられたので,「聖書アンシャル体 Biblial Uncial」とも呼ばれる。この特徴はまた,コプト文字にも受け継がれている [7]

『新約聖書シナイ羊皮写本』[Public Domain / 出典]
第 1 カラム上部拡大

走り書き体(6 世紀)

文書体の中の早書きスタイルのものは,ラテン文字のそれにならって「走り書き体(Cur-sive」とも呼ばれる。これはラテン語の cursus 「走行」に由来する形容詞であるが,漢字の書体になぞらえれば,Uncial は「楷書体,Cursive は「草書体」ということになる [7]

走り書き体 [Anonyme / Public Domain / 出典]

小文字体

8 世紀以降の新しい書体を「小文字体 Minuscle」と呼ぶ。この書体は「走り書き」的な文書体の一種から発祥し,ビザンティンの首都コンスタンティのポリスのストゥティオン修道院がその形成に指導的な役割を果たしたという。この書体は間もなく様式化され,10 世紀末頃までの写本ではほぼ画一的に用いられるようになった。のちの標準的ギリシア文字の小文字体の基盤となった [8]

最古の小文字体で書かれたウスペレスキー福音書 (835 AD) [Unknown / Public Domain / 出典]

純小文字体(10世紀)

11 世紀の初めころから,小文字体の中に当時装飾的に使われていたアンシャル体文字が盛んに取り入れられ「混合小文字体」とも呼ばれる [8]

『ツキディデス』写本の一部 [Anonyme / Public Domain / 出典]

『スキュリツェス年代記』ヨハネス・スキュリツェス『スキュリツェス年代記』 [unknown / Public Domain / 出典]

後期小文字体(15 世紀)

過渡的な時期を経て,13 世紀以降,ギリシア文字の書体はその最終的な段階ともいえる「後期小文字体 Late minuscule」と呼ばれる書体を完成させた [8]

アリストテレス『政治学』Codex recentior (1493) [Anonyme / Public Domain / 出典]

ギリシャ語の合字

書くスペースを節約するために,ローマ人はしばしば,連続する 2 文字に文字中の 1 線を共有させることによって 2 字またはそれ以上の文字をつなげてかくことがあった。この方法はローマ時代のギリシアでも採用されるようになった [9]

例としてあげる,フィロカリア (Philokalia) は, 4 世紀から 15 世紀までの教父または修道僧の著作の抜粋集。1783 年にベネチアで初めて刊行された。いずれもギリシア語で書かれ,東方正教会の神学思想に影響を与えた [10] この「フィロカリア」をデジタル化する企画が提案され,専用のフォントが作成された。そのドキュメントに掲載されている合字の例を次に示す [11]


アリストテレス『詩学』の一部 [ Philokalia]

テキスト入力

ユニコード

ギリシア文字のユニコードでの収録位置は,主に現代ギリシア語を表記する U+0370..U+03FF と,古典ギリシア語で必要な U+1F00..U+1FFF に分けて配置されている。なお,U+03E2..U+03EF はコプト文字である。

古代ギリシャ数字のユニコードでの収録位置は U+10140..U+1018F である。

ギリシア文字入力方法

ギリシア語用スクリーンキーボードをデスクトップに表示して,画像の配列を参照しながら,キーボードから文章を入力する。タスクバーには ISO 639-1 の言語コードでギリシア語を表す「EL」が表示される。【参照】 多言語環境の設定

関連リンク・参考文献

[最終更新 2021/11/10]