ハトラ文字 英 Hatran script

ハトラ(Hatra,現在の Al-Haḍr)はイラクのチグリス川とユーフラテス川との上流に挟まれた遺跡で,考古学的発掘の結果,かつてはペトラと同じく隊商貿易の要地として繁栄した都市であることが分かった。これまでに約 400 点のアラム語碑文が出土しており,その文字は南メソポタミア系のアラム文字にもパルミラ文字にも似た点があるが,独自の要素ももったアラム文字であるので,ハトラ文字と呼ばれる。→ 松田
ハトラ文字
ハトラ文字碑文のうち 10 の碑文には年代が記されている。最も初期のものに「409 年」(後 97/98)とあるが,これは前 312 年 10 月に始まるセレウコス時代の年号である。この,最初期のハトラ碑文第 214 の字体はすでにかなり発達している。最も後期の年代を記した碑文は,碑文第 35(後 238 年)である。 → ヨセフ・ナヴェー
ハトラ文字サンプル
ハトラ文字碑文第 214 後 97/8 年

ハトラ碑文第 35 後 238 年

ハトラ文字アラム語とギリシア語との 2 言語で書かれた碑文は,ハトラの西南西方ユーフラテス右岸の同じくパルティア王国都市だったドゥラ・ユーロポス(Dura Europos)でも出ている。
ドゥラ・ユーロポスのギリシア語との 2 言語碑文

ハトラ碑文第 405 → Everson(2012)
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ハトラの北方のハッサン・ケフ,アルメニアのガル,グルジアのアルマジなどからも,ハトラ文字に酷似した書体のアラム文字で書かれた碑文が出土しているが,ハトラとその近隣から出た上述の碑文と比べると,字形のかなり異なる字母がある。
ハトラ文字対照表

1. ハトラ第 214 碑文;2. ハトラ第 35 碑文;3. ドゥラ・エウロポスの 2 言語併用碑文:4. アッシュル出土:5. アブラト・アル・サギラ出土;6. サリ出土;7. ハッサン・ケフ出土;8. ガルニ出土:9. アルマジ出土 → ヨセフ・ナヴェー
ユニコードハトラ文字
ハトラ文字のユニコードでの収録位置は U+108E0..U+108FF である。
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関連リンク・参考文献
Hatran alphabet
- ScriptSource Hatran
- ALFABETO HATRAN
注
- 松田伊作(2001)「ハトラ文字」『世界文字辞典』(言語学大辞典,別巻,三省堂)
- ヨセフ・ナヴェー 著 ; 津村俊夫 他訳(2000)『初期アルファベットの歴史』(法政大学出版局)
- Everson, Michael (2012) Preliminary proposal for encodeing the Hatran script in the SMP of the UCS
[最終更新 2018/10/20]