アヴェスタ文字 英 Avesta script
アヴェスタ文字は,ササン朝ペルシア(西暦 226~651)の後期(5~6 世紀)に,パフラヴィ(中期ペルシア語)文字の最後期の形態を基礎に考案されたものである。
「アヴェスタ」の言語は本来東イランの方言に属す。しかし,アヴェスタ文字が考案され,テキストが文字で記録された当時には,早い時期に西南イラン(パールス地方)に移植された「アヴェスタ」の言語は,何世紀にもわたる口唱伝承に支えられて,宗教儀式に朗唱される聖典の中に存在するのみだった。話し言葉としてはもとより,聖職者間の意思疎通の手段としての機能も失っていたのである。このことは,アヴェスタ文字が,母音字・子音字ともに,極度に微細な音声的区別を記録するように工夫されており,明らかに環境による変異音と見なされうるものに対して,しばしば別々の文字が与えられていることからも推測できる。 [1]
文字構成
母音字
母音文字 のローマ字転写の表記は,古イラン語段階に想定される母音の長短の差を必ずしも反映していない。ササン朝後期にはむしろ開口度の差を区別していた可能性が強く,その際 1 対の母音のうち,アヴェスタ文字で 1 画少ないもの(転写で長母音記号をもたないもの)が狭母音,1画多いもの(長母音記号で転写するもの)が広母音を表したと考えられる。
子音字
アヴェスタ語テキスト
サンプルテキスト
ボドリアン図書館、MS J2fol。175 [Public Domain/ 出典] |
ユニコード
アヴェスタ文字のユニコードでの収録位置は U+10B00..U+10B3F である。
入力方法
Unicode アヴェスタ文字フォント対応の入力メソッドは存在しない。そこで,アスキーコードに対応したアヴェスタ文字フォント Jamaspa の例を挙げる。個々の文字は下に示すようにそれぞれのキーボードに対応している。なお,入力に際しては,右横書き(right-to-left)機能をサポートするワープロなどが必要である。【参考】 多言語環境の設定
注
- ^ 熊本裕 (2001)「アヴェスタ文字」『世界文字辞典』河野六郎, 千野栄一, 西田龍雄 編著『言語学大辞典 別巻 (世界文字辞典)』三省堂, pp. 1-2.
- ^ Daniels, Peter T.,熊切拓訳 (2013)「イラン諸語のためのアラム文字体系」Peter T.Daniels, William Bright [編] ; 矢島文夫 総監訳 (2013)『世界の文字大事典』朝倉書店, p. 557.
関連リンク・参考文献
- Avestan alphabet
- Omniglot: Avestan
- Avesta-Zoroastrian-Archives www.avesta.org
- TITUS Didactica: Old Avestan Text Sample