パフラヴィ文字 英 Pahlavi script
中期ペルシア語(Middle Persian [Pahlavi])を記すのに用いられた文字で,マニ教系資料に用いられたマニ文字以外のものを便宜上まとめて「パフラヴィ文字」と称す。この文字は,基本的にはアケメネス朝ペルシア(前6~前4世紀)の公用語であった(帝国)アラム語の文字をイラン語の表記に用いたものであり,現存の代表的な言語資料から,その発展段階に従って,次の 3 つのタイプに分けることができる。1)ササン朝ペルシア(3~7 世紀)初期から中期の碑文で用いられた文字。2)中国新疆ウイグル自治区トゥルファン(Turfan)出土の中期ペルシア語訳旧約詩篇断片の文字(Psalter)。3)9 世紀以降に作成され,13 世紀以後の写本で現在に伝わる大量のゾロアスター教系の書物に用いられた本来の「パフラヴィ」文字(書物のパフラヴィ)。 [1]
文字構成
「碑文パフラヴィ,Inscriptional Pahlavi」文字は,本来のアラム文字の 22 文字のうち,w (wāw),' ('ayin), r (rēš)の 3 種類,および m (mēm), q (qōp) の 2 種類がそれぞれ同形となり,実際に区別される文字の数は 19 となる。「書物のパフラヴィ,Book Pahlavi」文字になると,w / ' / r / n の 4 種の文字が区別を失うことになる。さらに, ' ('ālep),h (ḥēṯ)が区別を失い,外形上区別されうる文字数は 14 種となり,「パフラヴィ」文字によるテキスト解読のための障害となっている。
Free Font: 帝国アラム文字 Aramaic Imperial Yeb,碑文パフラヴィ文字 ZH Mono,書物パフラヴィ文字 Ardashir,
中期ペルシア語テキスト
サンプルテキスト
パフラヴィ文字の転写に際しては,イデオグラム(代名詞・前置詞・一部の名詞および大部分の動詞を表記する際に,ペルシア語形を表音的に書かずに,それぞれの意味にほぼ対応するアラム語形を慣習的に書いたもの)は大文字で,イラン語の部分は小文字で表すのが慣例である。
出典:Daniels [2]
文字入力
文字コード
碑文パフラヴィ文字のユニコードでの収録位置は U+10B60..U+10B7F である。
Free Font: ZH Monoアスキーコードに配置されている書物パフラヴィ文字フォントの文字コードは以下のとおりである。
Free Font: Ardashir入力方法
碑文パフラヴィ文字対応の入力メソッドは存在しない。 書物パフラヴィ文字を入力する際には,右横書き(right-to-left)機能をサポートするワープロなどが必要。【参考】 多言語環境の設定
注
- ^ 熊本裕 (2001)「パフラヴィ文字」河野六郎 [ほか] 編著『言語学大辞典 別巻 (世界文字辞典)』三省堂, pp. 749-750.
- ^ Daniels, Peter T.,熊切拓訳 (2013)「イラン諸語のためのアラム文字体系」,Peter T.Daniels, William Bright [編], 矢島文夫 総監訳, 石井米雄 [ほか] 監訳『世界の文字大事典』朝倉書店, pp. 555-556.
関連リンク・参考文献
- Pahlavi scripts
- Omniglot: Middle Persian scripts
- Iran Chamber Society: Pahlavi Script
- ScriptSource: Inscriptional Pahlavi
- ScriptSource: Book Pahlavi
- DKUUG standardizing Psalter Pahlavi: Proposal for encoding the Psalter Pahlavi script in the SMP of the UCS (1.96 MB)
- DKUUG standardizing Book Pahlavi: Preliminary proposal to encode the Book Pahlavi script in the BMP of the UCS (2.45 MB)