リンブ文字 英 Limbu script
リンブ文字(別名キランティ文字 [Kiranti script])は,ネパール東部からシッキム,ダージリンにかけて分布するリンブ族の使用する文字。ネパールヒマラヤの諸言語で独自の文字をもつのは,ネワール,レプチャ,それにリンブの 3 言語である。この文字にはおそらく 2 つの層が区別される。1つは 18 世紀に成立したもの,もう1つは 20 世紀になって文字復興運動の中で漸次改変されてきた新しい体系である。[1]
リンブ文字について具体的紹介がなされたのは,1855 年,キャンベル(A. Campbell)によってであった。 その文字は 18 世紀初頭,ネパール東部がシッキム王国の版図に入っていた頃,リンブ族の英雄シュリジャンガ(Śirijaṅgā)によって作られたとされ, レプチャ文字の成立とほぼ重なる時期である。文字の構成原理は原則的にデーヴァナーガリー文字のそれに範をとっているが,当時,チベット仏教が急速にこの地域に浸透してきたことと文字の字形を考え合わせると,チベット文字とその構成原理に強い影響を受けたと考えるのが自然である。[1][2]
20 世紀になって,民族のアイデンティティーの象徴としてリンブ文字は復興する。1920 年代からリンブ文字復興運動を起こしていたチェムジョン(Iman Singh Chemjong / Cemjoṅ)はリンブ文字の整備を行った。 また,『リンブ・ネパール・英語辞典』(1961/2)を出版した。この運動を引き継ぎ,リンブ文字の再編成とリンブ語の教科書などの出版物の発刊を活発化させたのがスッバ(B. B. Subba)である。[3] 以下の字母表を初めとする説明はスッパに因るものである。
文字構成
子音字
母音記号
末子音
介音
数字
リンブ語テキスト
『世界人権宣言』第一条
ユニコード
リンブ文字のユニコードでの位置は U+1900..U+194F である。
注
- a b 長野泰彦 (2001)「リンブ文字」河野六郎, 千野栄一, 西田龍雄 編著『言語学大辞典 別巻 (世界文字辞典)』三省堂, p. 1130.
- ^ 町田和彦 編 (2011)『世界の文字を楽しむ小事典』大修館書店, p.257. 旧シッキム王国は,中国清朝の属国とも見做され複雑な国際環境にあった,初期レプチャ文字が縦書きされたのは漢字の影響とされる。現在は左からの横書きされるが,元の縦書きをそのまま 90 度左に回転させた要領のため,字形も 90 度左に回転した字形となっている。なお,縦書きから横書きへの変化は,縦書きのソグド文字が漢字に合わせて横書きになったのと逆の事例である。
- ^ 長野 p. 1132.
関連リンク・参考文献
- Limbu language
- Omniglot: Limbu
- Google foto: Limbu
- Limbu language - Audio Bible stories and lessons