アブハズの文字 英 Abkhaz alphabet,露 Абхазская письменность
アブハズ語(アブハズ語 Аҧсуа бызшәа)は,アバサ語,アドゥイゲ語,カバルダ語,ウビフ語ととも北西コーカサス語族に属す言語である。アブハズ語の話者の大多数は「アブハジア共和国」(国際的には未承認国家であり,独立国として承認しているのはロシアなど一部の国のみ)に居住し,トルコや中近東の国々にもディアスポラとしてアブハズ語を話す話者が住んでいる。 [1]
文字・書記法
アブハズ語のアルファベットが初めて考案されたのは,1862 年,ウスラール(П. К. Услар)によってである。キリル文字を基礎とするこのアルファベットは,一部改められた形で,1928 年まで使用された。その後,ラテン文字に基づく書記法が採用され,1938 年には,それがグルジア文字を基礎とする書記法にとって代わられる。1954 年に再び,キリル文字を基礎とする正書法が導入され,現在にいたる。 [2]
初期キリル文字 ~1928
初期のキリル文字による書記法では,ロシア語で用いるアルファベットに加え,下記の文字を使用する。 [3]
サンプルテキスト
マルコの福音書 [4] |
ラテン文字 1928~1938
ロシアでは 1917 年と 1924 年の正書法の改正を経て,ウイグル語, カザフ語, キルギス語などと同様に,アブハズ語の書記体系もラテン文字化され,キリル文字はラテン文字におきかわった。
グルジア文字 1938~1954
1931 年にはスターリンによって,グルジア・ソビエト共和国に属するアブハジア自治共和国の名の下にグルジア化が強く進められた。このため一時アブハズ語が禁止されるとともに,グルジア語が公用語として強制され、多くのアブハズ人が粛清で命を落とした。スターリンの死後になって、アブハジアの自治は回復された。
現行のアブハズ語アルファベット 1954~
他の北西カフカース諸語と同様に,アブハズ語の音韻体系も,単純な母音組織と複雑な子音組織に特徴づけられる。以下に示すキリル文字によるアルファベットは現行の書記法である。母音
アブハズ語の母音音素は,a/a/ と ы/ə/ の 2 つで,これらの母音と /j/,/w/ との融合などにより,音声的には o,e,y,и [o, e, uː, iː] が実現される。
子音
子音の大きな特徴は「有声」:「(有気)無声」:「放出」の対立があることである。放出音(喉頭化音ともいう)は,声門を閉鎖しながら喉頭全体を持ち上げ,空気を圧縮し,破裂させる音である。
サンプルテキスト
世界人権宣言第一条 [Universal Declaration of Human Rights - Abkhaz] |
アブハズ語テキスト入力
汎用フォント (Times New Roman, Microsoft Sans Serif など) を利用際は,キーボードをロシア語に設定し,アブハズ語で用いる下記の文字を 多言語環境の設定を参照して入力する。
注
- ^ 柳沢民雄 (2010)「アブハズ語」町田健 監修『ヨーロッパのおもしろ言語:ニューエクスプレス・スペシャル』白水社. p. 8.
- ^ 中川裕(1988)「アブハズ語」河野六郎, 千野栄一, 西田龍雄 編著『言語学大辞典 世界言語編(上)』三省堂, p. 236.
- ^ ここに挙げた文字 U+A680からU+A697(Cyrillic Extended-B)を実装するフォントは, Quivira, Code2000 などに限られる。
- ^ [Nida, Eugene A. ed.] (1972) The book of a thousand tongues. (Revised ed. London: United Bible Societies)
- Abkhaz alphabet
- Omniglot Abkhaz (аҧсуа бызшәа)