ムンダー諸語の文字 Scripts for Munda languages
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ムンダー諸語はインド・ジャールカンド州を中心として,隣接するオリッサ州,西ベンガル州,チャッティースガル州に散在する,ムンダー諸族の話す言語の総称である。モン・クメール諸語とともに,オーストロアジア語族を形成する。
ムンダー諸語は,もともと文字をもたなかった。たいていは,ベンガル文字,ナーガリ文字,オリヤー文字など,その地域の有力な文字か,ローマ字が表記手段として用いられた。しかし,インドにおいては文字をもつかもたないかは,その言語が公的に承認されるかどうかと密接に関わる重大な問題である。そこで,近代インドにおいては,こうした無文字言語のために,新しい文字を考案するケースが珍しくない。ここでは,ムンダー諸語のうち独自の文字を有する,サンタル語の「オル・チキ文字」,ホー語の「ワラング・クシティ文字」,ソーラー語の「ソラング・ソンペング文字」,グトプ語の「グトプ文字」について概観する。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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ムンダー諸語の分布 | |
【出典】Grierson, G. A. Linguistic survey of India. vol. 4. | [拡大] |
目次
オル・チキ文字 |
ソラング・ソンペング文字 |
グトプ文字 |
ワラング・クシティ文字 |
オル・チキ文字 Ol Chiki |
サンタール語独自の文字として考案されたのがオル・チキ文字 (Ol Chiki, Santali alphabet)である。オル・チキ文字 はラグナート・ムルム (Raghunath Murmu) という,オリッサ州マユルバンジ(Mayurbhanj)県ドールボス村生まれの一人のサンタール人によって考案された。⇒ オル・チキ文字 |
【出典】A Santali News Paper |
ソラング・ソンペング文字 Sorang Sompeng |
ソーラー語は,インド東部からバングラデシュにかけて用いられる言語である。ソーラー語は,従来,バプテスト派の伝道師たちによって考案されたローマ字を基礎とした文字体系やテルグ文字・オリヤー文字体系によって書き記されていた。やがて,独自の文字体系を創り,民族のアイデンティティを維持しようとする運動が起こった。 ⇒ ソラング・ソンペング文字 |
【出典】Proposal for encoding the Sora Sompeng script in the UCS |
グトプ文字 Gutub / Gadhaba Script |
アンドラプラデシュ州北部沿岸スリカクラムに住むスケジュール・カーストであるグトブ集団で用いられるグトブ語を表記するための文字。アーンドラ大学のプラサンナ スリー(Dr. Sathupati Prasanna Sree)が考案した。 |
文字構成 |
関連リンク |
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ホー(ワラング・クシティ)文字 Varang-Kshiti |
北ムンダー言語であるホ語(Ho)は,ムンダ語(Mundari)とお互いに通じ合うほど類縁関係がある。ホ語のためのワラング・クシティ文字は,ビハール州のシンンブーム県パセヤ村に生まれ,のちに村のシャーマンとして活動するラコ・ボドラ(Lako Bodra)によって 1950 年代半ばに考案された。しかし,ボドラは,この文字を考案したのではなく,発見したと主張する。彼は,ワラング・クシティ文字はもともと 13 世紀にダワーン・トゥリ(Dhawan Turi)という人によって考案され,それを,シャーマン的儀礼を通して再発見したにすぎない,と述べている。実際は,ブラーフミー文字,グルムキー文字,モーディー文字,当時すでにある程度広まっていたサンタル語のオル・チキ文字などの影響を受けて作られたものと見られている。Unicode 7.0 でこの文字の追加(U+118A0..U+118FF)が予定されている。 |
文字構成 |
母音字 |
左側 2 つ目から 10 個が母音字である。左端の記号は om と翻字される文字の神秘性を示す特別な記号で文頭に置かれることがある。この文字体系が,サンスクリット語を意識していたことを表す一例である。 |
子音字 |
数字 |
【出典】The HO language |
関連リンク |
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関連リンク・参考文献 |
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[最終更新 2019/01/20]