書字方向― 縦書き・横書き
世界に存在する文書は,その言語および表記する文字体系の組合わせによって文字を書き進める方向(書字方向)が異なる。書字方向には,大きく分けて縦書きと横書きがある。
横書きは,文字を行ごとに一方向に横に並べる。横書きには,文字を左から右へ(→)順に並べて行を右に進める左横書き (1) と,文字を右から左へ(←)順に並べて行を左に進める右横書き (2) がある。横書きの一種に,牛耕式(ブストロフェドン boustrophedon)と呼ばれる書字方向があり,行ごとに書字方向が変わるような書法がある (3,4)。
縦書きは,文字を列ごとに上から下に縦に連ねる。縦書きには,列を右から左へ(←)順に並べる右縦書き (5)と,左から右へ(→)順に並べる左縦書き (6) がある。また,希な例として左下縦書き (7)と右下縦書き (8) が見られる。
中国語および,その影響を受けた日本語,朝鮮語では,本来縦書きで右から左へ行を進めていた(右縦書き)。しかし,近代以降はいずれの国でも横書きとの併用が行われる。縦書きと横書きの両方が可能な文字言語は現代では比較的珍しく,文字を正方形のマスに見立てて配置する漢字文化圏の特徴である
横書き
左横書き
フェニキア文字がギリシア語の表記のために借用された時期(前 9 世紀頃)は,このギリシア文字の書字方向は多くは右書きであり,時にはプストロフェドンのような中間的な形式もあったが,その後の数世紀のあゆみのうちに左書きに定着した。その理由ははっきりしないが,フェニキア文字では母音を記さない方式であったから 1 単語の字数が少なく(平均 3 ~ 4 文字),左右どちらから書いても判読にあまり困難がなかったと考えられるのに対し,ギリシア文字では母音を表記するようになって単語の字数がずっと増えているので,プストロフェドン方式をやめて左書き方式になったと言えるのではなかろうか。(矢島 1977) ギリシア語が左横書きを採用し,ラテン文字,キリル文字,アルメニア文字・ジョージア文字なと,ヨーロッパのまた,左横書きのブラーフミー文字から発達した多くのインドで行われる文字,さらにビルマ・タイなど東南アジアの言語でも左横書きが広く用いられるようになった。文字サンプル
ハングル
<span lang="ko"> 모든 인간은 태어날 때부터 자유로우며 그 존엄과 권리에 있어 동등하다. 인간은 천부적으로 이성과 양심을 부여받았으며 서로 형제애의 정신으로 행동하여야 한다. </span> |
ジャワ文字
ジャワ文字とは,インドネシアのジャワ島で使用されているジャワ語を表記するための文字体系。今の文字体系になったのは 17 世紀と言われ ,この文字で書かれた文学作品が多く残されている。文字は n や u を連ねたような形をしている物が多い。文字の上下に大きく書かれる筆画も特徴的であり,それらは母音半体記号や二重子音,音節末子音を表している。インドの文字体系のように独立した母音文字があり,子音文字にも無気音・有気音に相当する物が存在するが,発音上は区別されていない。Unicode では,U+A980..U+A9DF の領域に文字が収録されている。【参照】ジャワ文字
【出典】 Convent of Pater Noster, The Lord's Prayer,Unicode Font of Javanese script Tuladha Jejeg
ビルマ文字
<font face="Padauk,Zawgyi-One,Myanmar3,Myanmar2"> <span lang="mya" language="Burmese"> လူတိုင်းသည် တူညီ လွတ်လပ်သော ဂုဏ်သိက္ခါဖြင့် လည်းကောင်း၊ တူညီလွတ်လပ်သော အခွင့်အရေးများဖြင့် လည်းကောင်း၊ မွေးဖွားလာသူများ ဖြစ်သည်။ ထိုသူတို့၌ ပိုင်းခြား ဝေဖန်တတ်သော ဉာဏ်နှင့် ကျင့်ဝတ် သိတတ်သော စိတ်တို့ရှိကြ၍ ထိုသူတို့သည် အချင်းချင်း မေတ္တာထား၍ ဆက်ဆံကျင့်သုံးသင့်၏။ </span></font> |
ラオス文字
<span lang="lo"> ມະນຸດເກີດມາມີສິດເສລີພາບ ແລະ ສະເໝີໜ້າກັນໃນທາງກຽດຕິສັກ ແລະ ທາງສິດດ້ວຍມະ ນຸດມີສະ ຕິສຳປັດຊັນຍະ (ຮູ້ດີຮູ້ຊົ່ວ)ແລະ ມີມະ ໂນທຳຈື່ງຕ້ອງປະ ພຶດຕົນຕໍ່ກັນໃນທາງພີ່ນ້ອງ. </span> |
クメール文字
<span lang="km"> មនុស្សទាំងអស់ កើតមកមានសេរីភាព និងសមភាព ក្នុងផ្នែកសេចក្ដីថ្លៃថ្នូរនិងសិទ្ធិ។ មនុស្ស មានវិចារណញ្ញាណនិងសតិសម្បជញ្ញៈជាប់ពីកំណើត ហើយគប្បីប្រព្រឹត្ដចំពោះគ្នាទៅវិញទៅមក ក្នុង ស្មារតីភាតរភាពជាបងប្អូន។ </span> |
タイ文字
<span lang="th"> มนุษย์ทั้งหลายเกิดมามีอิสระและเสมอภาคกันในเกียรติศักด[เกียรติศักดิ์]และสิทธิ ต่างมีเหตุผลและมโนธรรม และควรปฏิบัติต่อกันด้วยเจตนารมณ์แห่งภราดรภาพ </span> |
東アジアの文字: 規範彝文, 女真文字, 悉曇文字, ソヨンボ文字, チベット文字, ナシ文字, フレイザー(傈僳)文字, ミャオ・ポラード文字 東南アジアの文字: アーホム文字, 黒タイ文字, クリタン文字, タイ・ナ文字, タイ・ロ文字, タム文字, トカラ文字, パハウ・フモン文字, ブヒッド文字, マカッサル文字, Balinese, Cham, Kayah Li, Redjang, Sundanese, Tagalog, Tagbanwa 南アジアの文字: オリヤー文字, オル・チキ文字, カンナダ文字, グジャラーティー文字, グランタ文字, グルムキー文字, サウラーシュトラ文字, シロディ・ナグリ文字, シンハラ文字, シャーラダー文字, ソラング・ソンペング文字, ターナ文字, タミル文字, デーヴァナーガリー文字, テルグ文字, ブラーフミー文字, ベンガル文字, マニプール文字, マラヤーラム文字, モーディー文字, ランジャナ, リンブ文字, レプチャ文字, ワラング・クシティ 中近東の文字: ウガリト文字 ヨーロッパの文字: アルメニア文字, エルバサン, オガム文字, ギリシア文字, グラゴール文字, ゴード文字, 古代教会スラブ語, ジョージア文字 (Asomtavruli, Nuskhuri, Mkhedruli), 線文字A,線文字B, ルーン文字, Beitha Kukju 南北アメリカの文字: イヌイット文字, オジブウェ文字, キャリア文, クリー文字, ジュカ音節文字, チェロキー文字, デザレット文字 ブラックフット文字 アフリカの文字: ヴァイ文字, エチオピア文字, クペレ文字, コプト文字, ソマリア文字, バサ文字, ロマ文字
右横書き
西アジアでは,古代アラム語が事実上の国際語として普及しており,その文字であるアラム文字もまた広範に使用されていた。その後,アラビア文字やシリア文字,ヘブライ文字(右図)など,西アジアでは多数の文字が生まれたが,その多くはアラム文字を源流とし,右から左に向かって横に書く形式である。文字サンプル
アラム文字
【出典】 左:アラム文字 | 右:パルミラ文字
アラビア文字
現在,表記にアラビア文字を使う言語は,アラビア語,ペルシア語,ダリー語,クルド語,パシュトー語,バローチ語,アゼルバイジャン語(主にイラン領で),シンド語,ウルドゥー語,カシミール語,パンジャブ語(主にパキスタン領で),ウイグル語,カザフ語(主に中国領で),キルギス語(主に中国領で),ベルベル語,マレー語(主にブルネイ,そしてマレーシアやインドネシアでは,ムスリム向けのメディアや宗教関係),モロ語(主にフィリピンのモロ族),ジャウィ語,バルティー語などである。
Unicode では,U+0600..U+06FF,U+0750..U+077F,U+08A0..U+08FF,U+08A0..U+08FF の領域に文字が収録されている。
<span lang="ar" dir="rtl">
يولد جميع الناس أحرارًا متساوين في الكرامة والحقوق. وقد وهبوا عقلاً وضميرًا وعليهم أن يعامل بعضهم بعضًا بروح الإخاء.
</span> |
ヘブライ文字
<span lang="he" dir="rtl">
כל בני אדם נולדו בני חורין ושווים בערכם ובזכויותיהם. כולם חוננו בתבונה ובמצפון, לפיכך חובה עליהם לנהוג איש ברעהו ברוח של אחוה.
</span> |
サマリア文字
ポエニ文字
日本語右横書き
日本語で行われる右横書きは一行一字の縦書と考えられる。同様の右横書きは,「先頭からの横書き」とでもよぶ,車の右側面には右横書き,左側面には左横書きで会社名などを書いたものにも見かける。右図は,旧川越織物市場(明治43)と同じ敷地にある旧栄養食配給所(昭和9年~20年)の看板。《右横書きを採用する文字》
古ベルベル文字, 古代エジプト文字, アラム文字, アヴェスタ文字, カローシュティー文字, メンデ文字, ナバテア文字, ンコ文字, パルティア文字, フェニキア文字, ティフィナグ文字, シリア文字, 南アラビア文字, ターナ文字
牛耕式
牛耕式は後述する「螺旋状に書く」ことや,ブギス文字の「一列書き」などと並んで,「行」を必要としない書き方である。牛耕式は,一本の紐を折りたたんだようなものである。
ヒッタイト碑文文字・ギリシア語法令
ヒッタイト帝国で用いられたヒッタイト語は,ヒッタイト象形文字(Hieroglyphic Hittite)と呼ばれる文字で書かれた粘土板と碑文で知られている。初期のギリシア文字は,右横書き,左横書き,牛耕式などで記された。
ロンゴロンゴ文字
ルーン文字牛耕式碑文
数字は読み進む順序を示す。まず7から9を先に読む。⇒ ルーン文字縦書き
東アジアでは古くから中国の漢字によって上からの縦書き・行は左へ移る,が決定され,この伝統的書字方向に影響された文字が多く出現した。西アジアの文化が強い波動を及ぼしてくると,満蒙民族は西アジアの音符文字の原理を用いて,自己の言語を写すことになった。ただし,西アジアの横書き文字が一旦東アジア地域に入ると,何時の間にか漢字の体制に同化されて縦書きに変わった。
右縦書き
縦書き(縦組み)は,日本語本来の記法である伝統と矜持と共に,書道作品のほとんど,国語の教科書,文芸(小説,詩歌,戯曲など),新聞などで用いられる。《右横書きを採用する文字》 西夏文字,契丹文字,女書(右図),チュー・ノム(𡨸喃),ハングル(現在は左横書きが普及),日本のかな文字も縦書きである。
左縦書き
モンゴル文字で表記されるモンゴル語は,左から右へと行を進める左縦書きを使用する。これは,モンゴル文字がソグド文字系統のウイグル文字から派生したことに由来する。これらの文字は,もともと右横書きされていたが,漢字の書記体系に影響をうけ,反時計回りに 90 度回転した形の左縦書きとなった。
《左縦書きを採用する文字》 モンゴル文字,満州文字,パスパ文字,ソグド文字,ウイグル文字など
モンゴル文字
パスパ文字・シベ(錫伯)文字
【出典】 左:蔡美彪编著(2004)『八思巴字與元代漢語 増订本罗常培』(北京 : 中國社会科学出版社)。右:佟玉泉 [ほか] 整理(1987)『锡伯 (满) 语词典』(乌鲁木齐 : 新疆人民出版社)
ウイグル文字
ソグド文字
エラム文字
【出典】 AncientScripts: Eramite
左下縦書き
マンヤン文字
ハヌノオ・マンヤン族は,片刃の小刀の先で竹の表面をひっかくようにしてマンヤン文字を書く。竹筒や竹片の端が水平に前方をさすようにもう片方の端を片手でつかみ,腹のちかくに寄せる。横書きになるように腹のちかくからとおく(日本式にいえば下から上に),そして行は左から右に移動させるる。日本人の感覚で言えば,横書きの原稿用紙を 90 度左にまわして書くようなものだといえる。なお,左利きの人が書くと,文字がすべて逆向きになるという(下図)。サンスクリット文字の系統をひく音節文字の使用は,今日,ハヌノオ・マンヤン族のほかに,ブヒッド族(ミンドロ島)とタッグバヌワ(パラワン島)の間にみられる。ハヌノオ族にとっては,個々の文字の向きはさして重要ではない。自分の目の前から読もうが,反対から見ようが,逆さまに見ようが,その文字は誰にでも読めるのである。ローマ字(ラテン文字)の学習の際に,ハヌノオ族以外のものにとって時に奇妙に映ることが起こる。ハヌノオ族はローマ字で書かれた本を,しばしば,逆さまにして読むのである。⇒ マンヤン文字
バタク文字
バタク文字は,インドネシアのスマトラ島で用いられるバタク語を表記する文字。カロー,シマルングン,トバの部族によって多少表記が変化する。 文字系統としてはインド系文字に分類される。右下縦書き
ティフナグ文字
北アフリカのベルベル人が用いるティフナグ文字は,右下から上に,行は左に進んで記述される。これは,書き手が下方から,手の届くだけ上方に書き,次にまた下方から書くことを示している。書き手によって身長は違うから,出発点を下端にしているためである。【出典】矢島 (1997)縦書き・横書き併用
日本語
日本語は,書字方向の自由度が高く,バラエティに富む点で,現行の文字体系の中では世界的に稀有の存在である。現代のシステムは,縦書き(左へ行移り)主体・左横書き併用,左横書き主体・縦書き(左へ行移り)併用があり,同一紙面・誌面で記事・コラムごとに違うシステムが共存していることも多い。日本語の表記は,各単字の正立像は回転させず,そのままで縦書き・横書きに用いられる。【出典】 屋名池 (2013)
幕末から明治にかけての,西洋文化の直輸入をめざした人々も,日本語はあくまで縦書きという観念に支配されていた。欧文との共存をはかって登場した新しい書字方向は,左横書きの欧文に合わせるため和訳の箇所を縦組み(正確には縦組みを横に転倒させたもの「横転縦書き」)としたものである。最初から横組みにすることなど,思いもよらなかったのであろう。【出典】 紀田 (1994) 下図『横文字独学』(青木輔清著 中外堂 明治 4 年)では左縦書きも採用している例である。(惣郷 1970)
横転縦書きは,明治 30 年ぐらいまで続いたが,外国語の発音を示すカタカナや語義の注など,便宜的な部分が一部横書きとなった。その部分を「尻上がり」もしくは「尻下がり」に組んで,アクセントを示した例もある。
【出典】『ウヰルソン第二リードル独稽古』(1885)紀田 1994 惣郷 1970
左図は,第四代「足利義持像」(右,1414 年賛),第六代「足利義教像」(左,15 世紀後半)の肖像がであるが,違いは人物の向きだけではなく,上部に禅僧の賛があるが,これが逆方向に行移りしてゆくのである。 賛の行の進行方向は,実は人物の顔の向きによって決まっている。この当時,「画賛は描かれた人物の顔の向いている方が先頭行になる」( 顔が左向き:左から右へ読んでゆく,顔が右向き:右から左へ読んで行く)という規則が存在していた。このことから,当時 2 種類の行移り方向があったとはいっても,両者は決して対等ではなく,左へ行移りする方が普通で,右移りは当時にあっても特殊な場合であった。【出典】 屋名池 (2002)
落語の周囲をゆるゆると描く「月刊落語通信」,ふきだしにも縦書き・横書きが併用される。
【出典】 IN☆POCKET 2014.08(講談社)
縦組に挿入する欧字の向き
古代エジプト文字
古代エジプトでは,ヒエログリフ(hieroglyph,聖刻文字,神聖文字),ヒエラティック(英: Hieratic; 神官文字),デモティック(民衆文字,Demotic)と呼ばれる 3 種の文字が使われていた。>
・ ヒエログリフ
古代エジプト文字の書字方向は,横書きに左書き,左縦書きに右縦書きが,同一刻文で同時に用いられる例もあった。この場合,左書きと右書きでは文字記号の図形が対称的(つまりそれぞれ他方の裏返し,裏返しの左右対称)になっている。
この文字は記念碑的な刻文に使われることが多かったから,文字を美的効果(あるいは魔術的効果)を持つものとして配列することかしばしば行われた。縦書きが,横書きが,という問題も,主として空間の処理法としての美学的見地から扱われたように思われる。
・ ヒエラティック:The Story of Sinuhe
・ デモティック
オガム文字
オガム文字が石に刻まれる場合は,下部から上向きに進み,縁の周りに沿って書かれた。 水平に書かれる際は,左から右に刻まれた。⇒ オガム文字
ロロ(老彝)文字
ロロ文字の書字方向には様々な書式がある。甘相営のロロ文字の書き順には,横書きと縦書きの 2 種があり,両者は紙自体を90度まわせば同じ物なのである。つまり個々の字も 90 度回転している訳で,行が左から右へ移る縦書きの文章は,90 度右にたおせば,そのまま右から左へ横に読む文書となる。【出典】 中西 (1994) ⇒ 規範彝文
突厥文字
突厥文字の多くは,右から左に横書きされ,上から下に行を追っていたが,「オルホン碑文」などは漢文の影響からそれを左に 90 度回転させて縦書きされ,上から下に読まれる。また,右に回転させて下から読む碑文もある。ただ,岩や丸石に記されたものは比較的自由な表記の方向をとっている。⇒ 突厥文字
渦巻き型・他
ファイストスの円盤
「ファイストスの円盤」に認められる渦巻き方向は,エジプト文字・ヒッタイト象形文字の例にならって顔に向かって読めば,書字方向は渦巻きの外から内へとなる。⇒ ファイストス円盤文字
エトルリア文字鉛銘板
初期ヘブライ語による呪文と最古の古ラテン語資料
イベリア文字
紀元前 5 世紀から紀元 1 世紀半ば頃にかけて,イベリア半島の南部から東部を経てフランス南東部に至る地中海沿岸に存在した刻文文字を,「イベリア文字」と総称する。ローマ帝政期に死語となった非印欧語系のイベリア語の表記人主として用いられた。右図は,南部イベリアで使われたタルテソス文字(escritura tartesia)と呼ばれる文字である。
ブギス文字
ブギス文字は昔は行替えを行わず,テープ状に長く張り合わせた椰子の葉に物語の終りまで 1 行で書いたそうである。左図は,行替えが行われているが,昔の名残に行が途中でおれながってなるべく行替えをしないように書かれている。【出典】 中西 (1994)
マヤ文字
マヤ文字は,主として紀元2世紀頃からマヤ地域で使用された一種の象形文字である。マヤ文字の読み順は,上から下へ,左から右へ,二列が対になって読まれていく。
文字の構成
【出典】 八杉 (2003)
縦組み・横組み
「横組」とは,文字組版において,文字の中心を縦方向にして,読む向きを横に並べて版面を構成すること。手書きの場合には 横書きといい,反対に,縦方向に版を組むことを「縦組」という。文字の書字方向と組版には,緊密な関係があるが,ラテン文字・アラビア文字・インド系文字など横書きを用いる言語圏では,特に「横組み」という意識は薄いであろう。
右綴・左綴
書字方向は本の仕立てと密接な関係がある。冊子本の場合,前ページ末尾の文字と次ページの最初の文字が最短になるような綴じ方が最も読みやすい。普通の左へ行移りする縦書きなら,ページ右上から始まり左下で終わるので,右綴じが最も無理がない。左上から始まり右下に終わる左横書きなら左綴じが最適ということになる。【出典】 屋名池 (2003)
特殊な例として,邦文と欧文の論文を各数編ずつ収録するような論文集の場合,邦文を縦書きにしていると,本を左右両側から開くようになり,奥付も2つ付ける例もある。また,左横書きされるシロティ・ナグリ文字では,ページは右から左に順に振られ,右綴じになっている。
絵巻物
日本の絵巻(詞書を伴わない,絵のみのもの)は各場面が右から左に展開してゆく。この順序は,縦書きの行が右から左へ儀行移りしてゆくという,日本語の伝統的な書字方向に慣れた人たちが,絵の場面を連続させるにもその方向性に準拠したからにほかならない。鑑賞方法は,作品を机などの上に置き,左手で新しい場面を繰り広げながら,右手ですでに見終わった画面を巻き込んでいくというものである。
一方,左横書きの文字を用いる言語の地域では,日本と逆に,各場面が左から右へ展開してゆくことも書字方向への準拠を示している。古代ローマの「トラヤヌス帝の記念碑」の浮き彫り(柱をめぐって下から螺旋状に上昇してゆくが展開すれば横長の長大画面)や,ノルマンのイングランド征服を描いた「バイユーのタペスロリー」などは,そうした典型的な例である。【出典】 屋名地(2006)
表紙
ラテン文字等の縦書き
横組方式の問題点に,書籍の背文字とか立て看板など,縦長の空間しかないところで使う場合,日本語・中国語等では,文字が基本的に正方形で縦組み・横組とも使い分けることができるため,文字を回転させるなどの問題はない。しかし,ラテン文字・アラビア文字などで書かれるタイトルを縦に配置せざるを得ない場面で次のような方法が取られることがある。- 文字の向きを変えずに 1 文字ずつ縦に配置する。これは日本語の右横書き同様,「1 文字ずつの横書き」とみなせる。横方向は左から右が原則なので,改行する時は右行に行く。立看板や柱などに書くときに見られる。下中央(アラビア文字)・右図(デーヴァナーガリー文字)参照。
- 横書きの行全体を左に 90 度倒す。行の方向は下から上となる。ドイツ語・フランス語の書籍の背表紙などに見られる。この場合,改行後は右行に行く。ただし,下左図のアラビア文字の場合は,書字方向は上から下になる。
- 横書きの行全体を右に 90 度倒す。行の方向は上から下となる。英語の書籍の背表紙や,縦書きで書かれた日本語の文章中に欧文を交ぜる時などに見られる。この場合,改行後は左行に行く。
ぶらさげ組み
句読点(本来は行頭禁則字)に限り,行末を超えた位置に来ることを許容する方式。活版,写植の手作業では,これにより禁則処理の必要回数を減らせたから,能率が向上するという効果があった。ただし,本来は縦組みについて行われてきたもので,横組みには用いるべきではないとするのが長らく定説となっていた。その一方で,ぶらさげ組みを許容することにより,禁則処理の頻度が減らせることから,現在では横組みにも拡張され,普遍的に行われるに至っている。【出典】 藤野 (2004)
コンピュータ処理と書字方向
ユニコード・フォント
Unicode フォントには,各文字の通常の書字方向に基づいて,書字の方向性が定められている。例えば,欧米の文字は左横書き(Left to Right: LTR / LR),中東圏の文字は右横書き(Right to Left: RTL / RL)である。Unicode のこの仕様を,双方向アルゴリズムまたは BiDi (Bi-Directional)アルゴリズムと呼ぶ。また,高度なリガチャ・アクセント付加・ 位置異形の処理に関する情報ももち,それらを自由に使うことが可能になっている。
Unicodeフォントを用いる最近のエディターやワードプロセッサーでは,言語キーボードを切り替えることにより書字方向と対応するフォントを変更し,さらに,異なる書字方向の言語を混在した文章を作成することが可能である。縦書きの場合も,右図に示すMicrosoft Word 2013の文字列方向を指定する箇所から,右縦書き・左縦書きを選択することも可能である。 【参照】 多言語環境の設定
Web 上における書記方向
左右混在
Good morning <span dir="rtl" lang="ar">صباح الخير</span> (ṣabāḥul kẖayr)一方,世界<span dir="rtl">言語博</span>物館 と属性を指定すると,「世界言語博物館」のように,書字方向は変わらない。これは,上で述べたように,漢字には左横書きという方向性が定められているからである。このような場合は次の direction プロパティを用いる。
Good morning صباح الخير (ṣabāḥul kẖayr)
地球<span style="direction:rtl;unicode-bidi:bidi-override;">ことば</span>村地球ことば村
縦書き
<div style="writing-mode:tb-rl; height:200px;"> すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない。
</div>
|
<div style="-webkit-writing-mode:vertical-rl; height:200px;"> すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない。
</div> |
モンゴル語
Internet Explorer <div style="writing-mode:tb-lr;"> Chrome, Opera など <div style="-webkit-writing-mode: vertical-lr;">
ᠲᠡᠦᠺᠡ᠋ ᠶᠢᠨ ᠪᠠᠭᠰᠢ ᠪᠠᠰᠠᠩᠺᠦᠦ ᠮᠠᠨ᠍᠋
ᠤ᠋ ᠠᠩᠭᠢ ᠳ᠋ᠤ ᠺᠢᠴᠢᠶᠡᠯ ᠣᠷᠤᠬᠤ ᠪᠣᠯᠭᠠᠨ ᠳ᠋ᠠᠭᠠᠨ « ᠮᠣᠩᠭᠣᠯ ᠶᠣᠰᠤ ᠵᠠᠩᠰᠢᠯ ᠢᠶᠠᠨ ᠰᠠᠶᠢᠨ ᠮᠡᠳᠡᠳᠡᠭ ᠡᠪᠦᠭᠡᠳ ᠺᠦᠭᠰᠢᠳ ᠡ᠌ᠴᠡ ᠡᠷᠲᠡᠨ ᠌ᠡ᠌ᠴᠡ ᠤᠯᠠᠮᠵᠢᠯᠠᠯ ᠲ᠋ᠠᠢ ᠦᠨᠳᠦᠰᠦᠨ ᠦ᠌ ᠪᠡᠨ ᠵᠠᠩ ᠵᠠᠩᠰᠢᠯ ᠤ᠋ᠨ ᠲᠠᠯ ᠠ ᠪᠠᠷ ᠨᠡᠷᠡᠯᠺᠡᠯᠭᠦᠢ ᠰᠠᠶᠢᠨ ᠠᠰᠠᠭᠤᠵᠤ ᠲᠡᠮᠳᠡᠭᠯᠡᠵᠤ ᠡᠠᠪᠤᠪᠠᠯ ᠬᠣᠵᠢᠮ ᠳ᠋ᠠᠭᠠᠨ ᠺᠡᠷᠡᠭ ᠪᠣᠯᠵᠤ ᠮᠡᠳᠡ᠊ᠨᠡ ᠰᠢᠦ ᠳᠤᠰᠤᠯ ᠢ᠋ ᠬᠤᠷᠢᠶᠠᠪᠠᠯ ᠳᠠᠯᠠᠢ᠂ ᠳᠤᠭᠤᠯᠤᠭᠰᠠᠨ ᠢ᠋ ᠬᠤᠷᠢᠶᠠᠪᠠᠯ ᠡᠷᠳᠡᠮ » ᠭᠡᠵᠤ ᠶᠠᠭᠤᠮ ᠠ ᠯᠠ ᠪᠣᠯ ᠺᠡᠯᠡᠳᠡᠭ ᠪᠠᠶᠢᠵᠢ ᠪᠢᠯᠡ᠃
歴史の先生バーサンフーは、私たちのクラスで授業をするたびに、「モンゴルの習慣をよく知っている老人たちに、昔から伝統的な民族の風俗習慣のことを遠慮しないで、しっかり聞いていて記録しておけば、将来に役立つかもしれないぞ、〈滴を集めれば海、聞いたことを集めれば学〉」としょっちゅう言っていたものだよ。 |
関連リンク・参考文献
- 縦書きと横書き | Right-to-left | Horizontal and vertical writing in East Asian scripts | Bi-directional text
- W3CWorking Group Note 日本語組版処理の要件(日本語版)
- Omniglot Writing direction index
- CyberLibrian 書字方向
- Cohen, Marcel (1958) La grande invention de l'écriture et son évolution. (3 v., Paris : Imprimerie nationale)
- Diringer, David. (1996) The alphabet: a key to the history of mankind. 2 v. (Hutchinson)
- 紀田順一郎(1994)「縦のものを横にする」『日本語大博物館』(ジャストシステム)
- 塩谷茂樹(2011)『モンゴル語』(大阪大学出版会)
- 惣郷正明(1970)『図説日本の洋学』(築地書館 ; 丸善 (発売))
- Nakanishi, Akira. (1980) Writing systems of the world. (Charles E. Tutlle)
- 中西亮(1994)『文字に魅せられて』(同朋舎出版)
- 西田龍雄(2001)「ナシ象形文字」,「ゴバ文字」『世界文字辞典』(言語学大辞典,別巻,三省堂)
- 西田龍雄(2002)『アジア古代文字の解読』(中公文庫 B7 20)
- 寺崎英樹 (2001)「イベリア文字」『世界文字辞典』(言語学大辞典,別巻,三省堂)
- 宮崎市定 著 ; 礪波護 編(1998)「歴史的地域と文字の排列法」『東西交渉史論』(中央公論社)
- 宮本勝(1985)「フィリピンのマンヤン文字」『月刊みんぱく』(1086.6 129)
- 矢島文夫(1977)『文字学のたのしみ』(大修館書店)
- 八杉佳穂(2003)『マヤ文字を解く』(中公新書 6444)
- 屋名池誠(2003)『横書き登場』(岩波新書 863)
- 屋名池誠(2006)「縦書きの奇妙な世界―縦書き・横書きの日本語史」『図書』((60) 639)
- 屋名池誠(2013)「書字方向の存在意義を文字の本質から考える」『日本語学』(32(5)=408(臨増))
- 山岡弘二(2001)「エラム文字」『世界文字辞典』(言語学大辞典,別巻,三省堂)
- 藤野薫 編(2004)『便覧 文字組みの基準―デジタル時代の文字組版ガイド』(日本印刷技術協会)